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June 30 Pg4のミステリー――本の電子化について――The Four-Pools Mystery by Jean Webster (2) [本・読み物 reading books]

(1 からのつづき) 1はあとです(わーかえって混乱かも)

    Jean Webster (née, Alice Jane Chandler Webster, 1876-1916) が『あしながおじさん』を出したのが1912年ですが、Vassar 女子大を出て2年後の1903年にはそれまで書いていた短篇小説を編んでWhen Patty Went to College という小説で実名(というかJean Webster 名で)デビューしているので、この本が名無しで出たのはジャンルの問題なのかもしれません。

  モーリちゃんの父的にはもちろん女探偵か少女探偵か、悪くても女ワトソンを期待するわけですが、残念ながら探偵役のTerry Patten (Terence K. Patten) は男ですし、語り手も男なのでした。 まだ読みかけですけど、最初の導入はつぎのような感じです。ニューヨークの弁護士事務所で働く「私」は過労による神経衰弱で静養が必要となり、子供のころ過ごしたことのある南部ヴァージニアの、Shenandoah川流域にあるFour-Pools Plantation という大きな農場に行くことになります。おじさんのColonel Gaylord と息子(つまり私のいとこ)のRadnor (Rad) が大勢の黒人をかかえてプランテーションを経営しています。おばさんは亡くなり、娘のNannie は父親に結婚を反対されて駆け落ちし、死んでしまった、というしらせを「私」は前に聞いていました。それと長男のJeff というのがいたのが、不良になって行方知れずになっている。Rad は私の8つぐらい年下で、「私」は小さいときのやんちゃなRadの記憶しかないのですが、「私」がよく覚えている兄のJeff に似て美男子に成長しています。少年時代から18年訪ねていないと言っていること、それと12歳の少年だった、と言っていることから、語り手の「私」は30歳ぐらいの青年じゃないかと思われます。ということで、サラシナ・ニッキみたいなキュートな女探偵を期待したモーリちゃんの父はがっくりきて2章で本を取り落としそうになってしまいました。

  気を取り直して・・・・・・農場に到着した晩に幽霊騒ぎが起こります。幽霊が食事を盗んでいったと黒人が騒ぎます。幽霊を見たという黒人もいる。「私」は、ひとりだけ特別扱いされている、ちょっと薄気味悪い黒人のMose を怪しいと思い、さらに真夜中のMoseの行動を疑うのですが、おじさんは、Moseに限ってそんなことはないといい、幽霊騒ぎ自体をバカバカしい、と息子と一緒に否定します。けれども息子のRadが奇妙な行動をするようになる・・・・・・。

  というあたりでやめておきますが、読んでいてニューヨークから南部にすぐに舞台がぶっとんだんで意外でした。 ウェブスターはニューヨーク州南西端のErie湖のそばにあるFredoniaという村の生まれですが、5歳のときにNew York Cityの邸宅に一家で引っ越しています。1897年、21歳になってニューヨーク市近郊のVassar College (当時女子大)に進学して、友人関係も含めて文化的刺激を受けます。処女作と同様に大学生活をモデルにしたといわれる『あしながおじさん』とかはニューヨーク市をひとつの舞台としながらもいくつかの田舎や海や山を描いて田園対都会という伝統的な構図をもっているのでしょうけど、しかし南部が出てくるとは。それも黒人英語がモロ出しに会話で出てきます。スティーヴン・フォスターもまっつぁお・・・・・・でもないか。こんな感じです。

    We were sitting on the portico after supper one night—it was almost dark and the glow from our cigars was the one visible point in the scenery—when Mose came bounding across the lawn with his peculiar loping run and fairly groveled at Radnor's feet, his teeth chattering with fear.
    "I's seen de ha'nt, Marse Rad; de sho nuff ha'nt all dressed in black an' risin' outen de spring-hole."
    "You fool!" Radnor cried. "Get on your feet and behave yourself."
    "It was de debbil," Mose chattered.  "His face was black an' his eyes was fire."
    "You've been drinking, Mose," Radnor said sharply.  "Get off to the quarters where you belong, and don't let me see you again until you are sober," and he shunted the fellow out of the way before he had time to say any more.
    I myself was tolerably certain that Mose had not been drinking; that, at least, was not in the list of his peculiar vices. He appeared to be thoroughly frightened—if not, he was a most consummate actor.  In the light of what I already knew, I was considerably puzzled by this fresh manifestation.  The Colonel fretted and fumed up and down the veranda, muttering something about these fool niggers all being alike.  He had bragged considerably about Mose's immunity in respect to ha'nts, and I think he was rather dashed at his favorite's falling-off.  I held my peace, and Radnor returned in a few minutes. (Ch. 5, "Cat-Eye Mose Creates a Sensation")

    2段落目のMose のセリフ――I's seen=I have seen=I saw.  de=the.  ha'nt=haunt=ghost.  Marse=Master.  sho nuff=sure-enough=real.  outen=out of.

   ウェブスターの母親はMark Twain の姪(ウェブスター自身を姪のように書いている記事がありますがまちがいです)にあたり、ウェブスターの父親は、1888年に仕事に行き詰って精神的におかしくなり1891年に薬の多量の服用により自殺してしまう、そのおかしくなるしばらく前までマーク・トウェインの本を出版したCharles L. Webster Publishing の所有者でした。それで、この作品であてこすりがあるとは思わないけれど、南部的なものとかをマーク・トウェインの作品を通して学んだとかあるのだろうか、と夢想します。少なくとも、話し言葉のスタイル、それもユーモアが底流に強く流れている語りのスタイル、はマーク・トウェインに通じるものだと思います。が、やっぱりもうひとつ意外だったのは、nigger ということばが、たくさんたくさん出てくることでした。マーク・トウェインへのあてこすりだとは思わないけれど。アマゾンの宣伝とか見ると対象年齢をけっこう子供からに設定している出版社があるのだけれど、今日の一部のPC的な感覚からしてだいじょうぶなんですかね。

   * * * * * * * *

   それにしてもどうしてこんなにたくさん去年から今年にかけて同じ本が何種類も出ているのでしょう。ネットで検索してみると、この作品がe-text化されて、一日1章読もうページとか、有名なGutenberg とか、Internet Archive とかで無料で読めるようになっていることがわかりました。次のLibriVox: Acoustical Liberation of Books in the Public Domain というページは、e-text だけでなくmp3 も含めてネット上の情報を各種与えています。

  LibriVox » The Four-Pools Mystery by Jean Webster (Catalogued on May 20, 2008)

  このページを見つける前に、Gutenberg で昨年の4月30日にe-textになったことを知りました。この作品の場合、初版のCentury版に基づき、初版の挿絵もおさめています。そして右の余白に初版のページ番号も示してあります(こういうのはGutenbergの場合テキストによって異なっていると思います)。入口はここ(アメリカではcopyrightはないが、他の国の場合ダウンロード前に確認するよう注意があります)かもしれませんが、挿絵つきのmirror site はここです。

  classicistranieri.com - The Mirrored Project Gutenberg eBook of The Four-pools Mystery, by Jean Webster

   さて、開けていただくと上に書いたように本文の右側に[Pg v]とか[Pg 3]とか初版のページが記してあるのがわかると思います。そして本文を数行にわたってコピーしようとするとこの部分も入ってきます。その場合どこに入るかは画面の幅によって違ってきます。モーリちゃんの父が買った本の1ページ目のまんなかへんにあった [Pg 4] はこれと考えてまちがいないと思います。

 Our firm rarely dealt with criminal cases, but the Patterson family were long standing clients, and they naturally turned to us when the trouble came. Ordinarily, so important a matter would have been put in the hands of one of the older men, but it happened that I was the one who had [Pg 4]drawn up the will for Patterson Senior the night before his suicide, therefore the brunt of the  

  また得意の推断ですけど(笑)。推断を続ければ、昨年の夏からのもろもろの版の多くはe-text を、それも人のつくったe-text をもとにしたもの、あるいはe-textをもとにしたさらなるe-textであるのではないかと思われ。例外として、初版と同じページ数のKessingerは、この出版社らしく初版のファクシミリであるはずです。

  なんだかモーリちゃんの父はさみしくなってしまいました。

  そして今日、記事を書こうとふたたび調べていたら、昨年の5月にこの作品について書いている日本の人がいることを知りました。――

  「2007年5月日記 [e-book diary--電子テキスト、翻訳、批評]」 <http://ebookdiary.hp.infoseek.co.jp/diary_6.html> 〔May 9, 2007 とそれに先立つMay 1 の日記を参照〕

  お名前を表立っては記していないようなのですが、翻訳リンクを見て、ご自身でいろいろ青空文庫とか杉田玄白とかで翻訳作品を出している林清俊さんであることがわかりました。5月1日の日記のなかには次のように書かれています。

  ・・・・・・本日Project Gutenberg から興味をひく本が三冊出た。

  • The Four Pools Mystery by Jean Webster
  • The Black Cross by Olive M. Briggs
  • The Attempted Assassination of ex-President Theodore Roosevelt by Bloodgood

最初の本は「あしながおじさん」の作者のミステリーだ。1908年、彼女のキャリアのごく初期に書かれたものだ。期待して読んでみよう。・・・・・・

  いやあ、日記を拝読して、読書三昧、文学への愛を感じました。そして訳者やのお、という感じでたいへん感銘を受けました。同時に紙の本にこだわって、e-text では通して読むことを考えたことのなかった自分の不明を恥じました。ちょっとだけ。だって目悪くなりそうだしー。

  しかしe-textをただ紙に落としただけのものよりはe-textのほうがはるかによい。検索もできるし。

  あ、あとタイトルが "The Four Pools Mystery" となっているものが多いのですが、"The Four-Pools Mystery" と"Four" と "Pools" をhyphenでつなぐのが正しいです。初版では表紙も扉も本文も一貫して "Four-Pools" です。Virginia州北部を流れるShenandoah 川の流域に農場はあるのですが、その地域では一番広いと書かれる敷地のなかに池というか沼が4つあって、そこから農場の名前が "Four-Pools" なんす。こういうところをおろそかにしたり、出版年を1907としたりするいいかげんな仕事をするのは出版社として落第です。他人のパンツ、いやふんどしで相撲を取るようなのもいやだなあ。

 2007-2008_TheFourPoolsMystery_ABCE_EFGH_.jpg

他人の画像か・・・

 

 Webster_The_Four-Pools_Mystery.jpg

自分の本の自分の画像

 

つづきの記事――「July 19 ウェブスターの『フォー=プールズ・ミステリー』または本の電子化とテキストの正確性について――The Four-Pools Mystery by Jean Webster (続き)

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林清俊 「2007年5月日記」 <http://ebookdiary.hp.infoseek.co.jp/diary_6.html> 〔e-book diary--電子テキスト、翻訳、批評

Internet Archive (archive.org) ではe-text が作品によると複数種類、複数のフォーマットで入っていますが、Texts ではなくて"Audio" にはLibriVox のものが入っています―<http://www.archive.org/details/four_pools_mystery_lb_librivox> 〔2008.5.20〕

InternetArchive (archive.org) のe-text には DjVu, PDF, TXT, Flip Book, HTTP でおさめられています。<http://www.archive.org/details/fourpoolsmystery00websiala>

LibriVox (librivox.org) <http://librivox.org/> 〔他の情報へリンクしつつふたつ上の自らの作成した音声ブックへもリンク〕

The Project Gutenberg eBook of The Four-pools Mystery, by Jean Webster <http://mirror.pacific.net.au/gutenberg/2/1/2/6/21264/21264-h/21264-h.htm> 〔2007.4.30〕

classicistranieri.com - The Mirrored Project Gutenberg eBook of The Four-pools Mystery, by Jean Webster <http://www.classicistranieri.com/english/2/1/2/6/21264/21264-h/21264-h.htm> 〔Classici Stranieri

DailyLit: Four Pools Mystery, The: Preview:1 <http://www.dailylit.com/books/four-pools-mystery/1> 〔DAILYLIT のページ〕

When Patty Went to College, etext at "A Celebration of Women Writers" <http://digital.library.upenn.edu/women/webster/college/college.html> 〔UPenn の企画〕

"Jean Webster - Vassar College Encyclopedia" <http://vcencyclopedia.vassar.edu/index.php/Jean_Webster>

 

 いちおう

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