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July 13 納本 delivery or deposit [スザンナ周辺]

July 13, 2008 (Sunday)

    昨日、日本の著作権の年表を、中学生の気分でつくっていたのだが、つくってから見つけたサイトに出版年表 ―発禁・わいせつ・知る権利と規制の変遷―という、ちょっと大人っぽいタイトルのページがある。もともと2005年2月に公開されたのが5月に本となり、加筆修正を加えたかたちでネットに載っている。冒頭に次のように説明がある。――

《本書は、若い人向けに、出版を中心に明治以来140年間の日々の出来事を拾った年表で、05年4月出版メディアパルより出版されました。ここでは修正や補遺を施しつつ、その後の動きも追加し、より多くの情報を掲出することができるため、キーワードによる検索を目的に、再編集します。まず、索引(キーワード)から掲出し、徐々に充実させていく所存であります。若者向けとはいえ、YOUNG AT HEARTの方であれば「歴史は繰り返す」のも、よいものです。2007年2月 橋本健午》 

  3章に分かれ、 それぞれ編年体の年表の前時代の状況を概説的に文章で語っている序説がついている。で、著作権関係についての記述でいろいろためになるところがありました。 (もともとは「版権」ということばは福沢諭吉がcopyright の訳語としてこしらえたという話はほんとにほんとだろうかと、気になって検索をかけてひっかかったのですが)。

   そして、そのあとまじなメモでdeposit のことを書きながら、なんかわがくにの国会図書館に一部本を納めなければならないというのと似ているけれど、国会図書館は著作権には関係ないのだろうな、と思い、でもこの制度につながるものが明治時代に起こったというようなことを年表に書いてあるのに気づきました。

   この「出版年表」の1869(明治2)年の項に次のような記載があります。――

 1・27/行政官布告81号「図書開板願並納本之件」の公布(納本制度の始まり…「出版物は、行政官に願い出て官許を受け、できたものを一部納本すべきこと」→出版条例(⇒1948・2・9、国立国会図書館法で現在の納本制度が確立)

   この年表の流れとしては、前年明治元年5月の「太政官布告により、出版、許可制となる(明治政府による最初の出版規制)」、同6月の「許可を受けない新聞の発行禁止」という、政府による出版規制のなかで捉えられており、同じ1869年の2月8日の「新聞紙印行条例の制定(発行許可制・検閲・政法〈政治のやり方〉批評禁止など)」、5月13日の「出版条例・同附録(許可制、政治誹謗・風俗壊乱禁止、版権保護など)公布(⇒75・9・3改正)」とも連動しているものとして捉えられているのだと思われます。

   まあ、ベルヌ条約(1886)のあと日本で版権条令(1887)や版権法(1893)が出て1899年に旧著作権法が出る、その20年、30年前の話なわけですが、「官許」を得るということが、資格なのか義務なのか権利なのか〈最後の線は薄いでしょうが)、どのように意識されていたのか気になるところではあります。少なくとも、本を納めて許可を得る、というのは19世紀アメリカのcopyright 申請のためのdeposit と、形式的には似ているような気もする(まあ似て非なるということなのだろうが、やりようによっちゃあ後者に発展させられうるだろう)。著作権なり版権なり出版権なりの意識との関係でそういう届け出方式がよいかどうかの判断はまた別問題だし、日本では検閲や規制という意識が先行してあったのかもしれないのだけれど。

   国会図書館のページを見ると、「納本制度とは」 と説明があり、戦後の「国立国会図書館法」の制定(昭和23年)により創設されたこと、国の諸機関の出版物は直ちに納入、民間の出版物の場合は、「発行の日から30日以内に、最良版の完全なもの1部を国立国会図書館に納入しなければならないこととされています」などと書かれています。「最良版」とかいうのはアメリカのCopyright Office が "the best edition" を(2部)送れ、というのと似てますね。

   日本版ウィキペディアには「納本制度」という項目があり、目的と仕組みについて最初のところでこう書いています。――

現在、納本制度は、一国の国民の文化的営為を記録した財産である出版物を特定の機関に集積、整理、保存し、国内出版物の書誌情報の総目録である全国書誌を作成することを主たる目的として行われている。さらに国と時代によっては、著作権の登録を行うためであったり、出版物の検閲を行うためであったりしたこともある。

  ああ、やっぱりね。

  つづく歴史のところもイギリス、アメリカ、日本、と興味深いので長めに引用します。――

〔フランスの王立図書館に〕続いて納本制度が誕生したのは17世紀初頭のイングランドである。長らく荒廃していた母校オックスフォード大学の図書館を1602年に再建した元外交官トーマス・ボードリーは、イングランドにおける出版の独占権を持っていた書籍商組合と1610年に契約を結び、契約による納本制度を構築した。これは、印刷業者の出版物に対する複製印刷販売の権利(コピーライト)を保護するために組合で行われていた登録制度に基づき、組合で出版を認証され登記された新刊書を1部づつオックスフォード大学図書館が受け取ることのできるようにしたものである。〔・・・・・・〕。

イングランドではその後、1662年の出版許可法で王室図書館(大英博物館図書館の前身)への納本が定められたのをはじめ、書籍商組合による登記制度を活用した納本図書館が拡大されていった。納本規定は1709年にはじめて制定された著作権法に受け継がれるが、同法で納本図書館に指定された図書館は9館に及び、現在では曲折を経て6館となっている。

続く18世紀から19世紀にかけて、納本制度による収集はヨーロッパ各国に広まっていった。ヨーロッパでは各国それぞれの事情により、王室図書館、国立大学図書館、国立公共図書館へ納本制度が設定されていった。特殊な例としては、アメリカ合衆国では連邦議会に属する議会図書館がイングランド後の連合王国における納本図書館と同様に著作権登録制度を通じて納本を受ける権利を獲得し、国立図書館の機能をもつようになった。

日本においては、1875年出版条例(のち出版法)による検閲の権限が文部省から内務省に移管されたのを機に、検閲のため内務省に提出された出版物のうち1部を東京書籍館帝国図書館の前身)に交付する、という仕組みによる納本制度が実現した。この制度は第二次世界大戦の敗北によって消滅し、かわって1948年に制定された国立国会図書館法により、純粋に図書館資料収集のための納本制度に切り替えられた。

   いやあ、勉強になりました。

  けど、アメリカは議会図書館 (Library of Congress)の前には(おそらく1870年以前は)  "Clerks of U.S. district courts"がdeposit を受け取っていたのですよね。Stephen Foster の歌曲の場合だと、Holt の初版が"Deposited in Clerk's Office So.[uthern] Dist.[rict] of N.[ew York] Feb. 25, 1848" と手書きがあり、別のDitsonの版には"Entered according to Act of Congress AD. 1848 by C. Holt Jr in the Clerks Office of the Dist Court of the Southn Dist of New York." と印刷があり、もう一つ別のHolt 版(Earlier American Musicが採用した版)にも印刷で "Entered according to Act of Congress AD. 1848 by C. Holt Jr in the Clerks Office of the Dist Court of the Southn Dist of New York." と書かれ、これはHolt という音楽出版社がNew York にあったからと思われますが、他の出版社はちがう場合があります。 4番まであるPeters版を出したLee & Walker の場合は "Entered according to act of Congress in the Year 1849 by Lee & Walker in the Clerks Office of the District Court of the Eastern District of Penna" と書かれていました。1848年12月30日のPeters初版は、"Entered according to Act of Congress AD 1848 by W. C. Peters in the Clerks Office of the district Court of KY [Kentucky]" と印刷され、さらに手書きの書き入れのあるものは "Filed[??] in KY Dist Court Clk office / 30 Dec. 1848" と書かれているようで 、1848年のEdward White の編曲した”Oh! Susannah Quick Step"は"Entered according to Act of Congress AD. 1848 by Oliver Ditson in the Clerk's Office of the Disctrict Court of Mass" と印刷されています。

  これらはいずれも Act of Congress に従ってdeposit が行なわれているようですので、当時の法律を調べてみようという気にいちおうモーリちゃんの父はなっています。

  しかし・・・・・・deposit っていう言葉は、電気や電話やら最初に「保証金」みたいなかたちでとられるやつもdeposit だし、家賃の最初の「敷金」もdepositiだし、銀行の預金もdeposit だす。で、みんな戻ってきてもらわないと困るんですけどぉ。

  ウィキペディアの「納本制度」の最初の簡潔な定義は、次のようなもので、法廷納本(legal deposit) というものに触れています。――

納本制度(のうほんせいど)とは、一において、その国で流通された全ての出版物が、図書館などの指定された機関に義務的に納入されることを目的とする制度のことである。納本制度により出版物の納本を受ける権利を有する図書館を納本図書館(のうほんとしょかん)といい、特に法律によって定められた納本制度は法定納本(ほうていのうほん、英語 : legal deposit)あるいは義務納本(ぎむのうほん)と呼ばれる。」

   だけれども、本文のすぐあとのほうで、「しかし、一口に納本制度といっても、その制度化と実質的な運用は、各国の出版業界、国立図書館制度、法制などの事情によって様々である。第二次世界大戦後の日本においては国立図書館が直接に納本を受け、納本された出版物は国有財産となるが、国と時代によっては契約による寄託として所有権は受託者に移転させないもの、国立図書館とは別の機関が受け取って国立図書館に交付あるいは寄託するもの、などさまざまな制度がみられる。」と書かれています。「寄託」という耳慣れないことば、いや目慣れないことばがでてきました。

   きたく、きたく、帰宅、北区、と。和英辞典・・・・・・その前に和英辞典で「納本」を引いたらdeliveryとしかなくてガックリきていたのです。・・・・・・

    ビンゴ!

   きたく〔寄託〕 *deposit  寄託,保管. ¶~する deposit  ・・・を預ける ¶~者 depositor (銀行の)預金者;供託者,寄託者.

 

     なんで英和辞典の方には載っていないのでしょう。

    ちなみに、著作権情報センターの外国著作権法」 < http://www.cric.or.jp/gaikoku/gaikoku.html > 〔「外国著作権法令集」「外国著作権法リンク集」〕にはアメリカ合衆国の著作権法の原文 Copyright Law of the United States and Related Laws Contained in Title 17 of the United States Code へのリンクだけでなくて日本語訳(山本隆司・増田雅子共訳)も載っています。

   そのChapter 4 が "Copyright Notice, Deposit, and Registration" という章なのですが、日本語訳は「著作権表示、納付および登録」となっていました。ベルヌ条約がらみの修正というか言及が目につきます。

   あと、はっきり断言はできませんけれど、パラパラ踊りながら読んでみると、depositしたブツはアメリカ合衆国政府のpropertyになってしまうようです(笑)

   最後にまたウィキペディアの記事を引用――

 

アメリカ合衆国における納本制度

アメリカ合衆国では、著作権法により納本制度が定められている。

著作権法407条により、合衆国国内で発行されるあらゆる著作物は、最良版の完全なコピーを2部、議会図書館の著作権局に無償で納付しなくてはならない。ただし、著作物が5部未満しか発行されていなかったり、各複製物に通し番号が付与されるような貴重なものである場合や、議会図書館著作権局長が特に認めた場合に限り、完全な納付は免除されることができる。納付を怠った者には罰金を科す規定も存在する。

英米法の著作権は、イギリスが印刷出版物の複製の権利(コピーライト)は排他的特権をもつ書籍商組合による登記によってはじめて保護されるとする制度をとっていた歴史から、長らく著作権保護には国家に指定された機関による登録が必要とされる方式主義をとってきた。1870年に制度化されたアメリカの納本制度が当初から有効に機能してきたのは、方式主義のもとで議会図書館著作権局に著作権登録の仕事を担わせ、著作権の保護登録と引き換えに著作権局を通じて議会図書館への無償納本を義務付けてきたことに大きく拠っていると考えられる。ただし、現在では1989年に同国がベルヌ条約に加入し著作権法を改正したため、著作権は著作物の創作時に発生するとする無方式主義に変更されており、登録は著作物保護に必須の要件ではなくなっている。

 

   

 

 

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