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July -- 新渡戸稲造の『武士道』の副題について On Subtitle(s) to Nitobe Inazo's _Bushido_ [本・読み物 reading books]

某月某日 

モーリちゃんの父の父から問い合わせがあって、新渡戸稲造の『武士道』の奈良本辰也訳(三笠書房、知的生き方文庫)の巻末に、原書の情報としてあがっているのが、岩波文庫の矢内原忠雄訳の副題と違っているように思えるけれど、英語を教えてほしいというのでした。――

 "Bushido The Soul of Japan". ――Another of the History of the Intercourse between the U.S. and Japan.

岩波文庫(初版は昭和13年)の扉には次のようにあったのでした。――

武 士 道
    日本の魂
      ――日本思想の解明――

  とりあえず、ほとんど常識的に、副題が "The Soul of Japan" (「日本の魂」)であるということは了解されます。矢内原訳にある、二つ目の副題は、モーリちゃんの父の好きなInternet Archives で調べてみると、次のようなかたちで記載されていたものらしい――

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New York & London: G. P. Putnam's Sons, The Knickerbocker Press, 1905  スタンフォード大学所蔵本

  上のfragile な本は、フランス装というか、ペーパーバックのようですが、同じパトナム社刊のハードカバー本のタイトルページ――

WS000043.JPG
トロント大学図書館所蔵本

  見開き左のページの、著者の作品リストには、Bushido の副題として "The Soul of Japan" しか記載されていないことがわかります。少なくともInternet Archives で参照できるE-text で見る限り、どうやら矢内原忠雄が第二の副題として岩波文庫に記した「日本思想の解明」というのは "An Exposition of Japanese Thought" の訳だけれど、英語版でこれをあわせて掲げているのは、英語版としては古くはパトナム社版に限られるように感じられます。

  いっぽう、奈良本辰也は、この副題(?) を含まないかたちで、代わりに、"Another of the History of the Intercourse between the U.S. and Japan" (「合衆国と日本の交流史ふたたび」?)を第二の副題として掲げているように見えるわけですけれど、実際、ぐーぐるを検索してみると、これを含むかたちで本のタイトルとしているページがたくさん見受けられ、それはどうやらもっぱら日本語のページであり、なぜなら、ウェブ全体に拡大しても数が増えないからです(Bushido + "intercouse between the" で検索、日本語のページで約473件ウェブ全体で検索約434件 ・・・・・・なんか検索のしかた間違えていたりして)。ただ、この検索では、新渡戸の別の本――これについては後述します――があわせて引っかかっているというのも事実で、すべてが Bushido の副題として "Another of the History of the Intercourse between the U.S. and Japan" を掲げているわけでもありません。で、個人のページをあれこれ言う気はとりあえずいまはないので、ウィキペディアの項目「日本人論」の「日本人による日本紹介」の記述を引きます。――

海外向けに英語で書かれた著書。後に日本語訳された。

アメリカ人に持ち、キリスト教徒で、学者として日本と欧米で活動をした著者が、日本の道徳理念・慣習について問われ、逡巡した後その源は武士道だと行き着き、これを解説、説明する書。
アーネスト・フェノロサに付いて日本美術の調査をしたのをきっかけに日本に目覚めた著者が、帝国主義全盛時代の欧米に、を通して自己充足の在り方を投げかけた書。

  大文字の使用とかいかにも一貫性がなく、書誌情報として信頼しかねるにおいが漂っていますけれど、『武士道』については、ともかく "The Soul of Japan" をコロンで導入して(第一の)サブタイトルであること、逆に "Bushido" がメインタイトルであることは示しています。そして『 』に全部入れているので、全部がタイトルだという判断も示しています。
 
  カリフォルニア大学図書館蔵書の Bushido のひとつには、1907年に東京で出版された第12版があって、その表紙には、"TEIBI PUBLISHING COMPANY/ 16 Gobancho, Tokyo/ 1907/ Separately copyrighted in America and England/ This edition is for sale only in Japan" と書かれています。そうして、タイトルは表紙を見ても、扉を見ても、本文を見ても、 (メインタイトル)"Bushido" と (サブタイトル)"The Soul of Japan" だけです。

WS000038.JPG

  Copyright ページは "BY INAZO NITOBÈ/ DECEMBER, 1904"とあります。 "Malvern, Pa., Twelfth Month, 1899." [Pa.=Philadelphia] と最後に記入のある、初版の "Preface" (v-viii) のあとに、"Preface to the Tenth and Revised Edition" (第10版改訂版への序)(ix-xi) があり、その冒頭は次のように始まります―

Since its first publication in Philadelphia, more than six years ago, this little book has had an unexpected history.  The Japanese reprint has passed through eight editions, the present thus being tenth appearance in the English language.  Simultaneously with this will be issued an American and English edition, through the publishing-house of Messrs. George H. Putnam's Sons, of New York.

    このあと各国語の翻訳や日本語の注解〔名前の出るSakurai Oson (桜井鷗村)は、この数年後、矢内原忠雄の1938年の日本語訳に先立つこと30年の1908年に、最初の日本語訳を出した人〕の出版などについて触れて、この改訂版の序文の終わりには、"I. N" のイニシャルのあと改行して、 "Kyoto, /Fifth Month twenty-second, 1905." と記されている。「1905年5月22日、京都」。「6年以上前に」という冒頭の記述は、この本の初版が1899年なのか1900年なのか、ということと関わるところですが、調べてみると、東京で出版される英語版の初版〔慶應義塾の図書館情報に従えば、Bushido, the Soul of Japan.  An exposition of Japanese thought.  Tokyo, 1900〕は1900年、同じく東京で出版されるドイツ語版の初版〔同じく、Bushido, die Seele Japans, eine darstellung de Japanischen, ins Deutsche ubertragen von Ella Kaufmann.  Tokyo, 1901〕は1901年ということはとりあえずわかりました。そして、はじめ出版社はShokabo というところだったこともわかりました。初版の序文の日付は1899年12月――"Twelfth Month, 1899"――と書かれておったわけですが、実際の出版はいつだったのでしょうか。どうやら図書情報的には、Philadelphia: Leed and Biddle, 1900 となっているものも見られますが、Philadelphia: Leed and Biddle, 1899, 1900 というのも見つかります。「新渡戸稲造生涯と作品早見表 [ An Inazo Nitobe Chronology: His Life and Work ]」というページの記載では、『武士道』については、 (3) <英文著作> に第12巻中に「Bushido(1900; 2nd ed.,1905)」と、副題の情報なしに記載され、(4) <英文著作の和訳> の最初に第1巻「『武士道』(全12: Bushido)[矢内原訳を底本とする(初訳、1908桜井鴎村)]」と書かれています。そして、つづく<新渡戸稲造年譜> において、「1899 Bushido執筆。1900.1.Bushido出版。」と書かれています。

  新渡戸は1891年に、ジョンズ・ホプキンズ大学の "Johns Hopkins Studies in Historical and Political Science" のシリーズの別巻8 として、The Intercourse Between the United States and Japan: An Historical Sketch (Baltimore: The Johns Hopkins Press, 1891) 〔E-text: http://www.archive.org/details/intercourseusjapan00nitorich〕を刊行していました。これについては、上の全集構成では、 (1) <専門書>の第13巻に 「The Intercourse between U.S. and Japan(1891) 」を、(4) <英文著作の和訳>の第17巻中に「『日米関係史』(全13: The Intercourse between U.S. and Japan)」を掲げています。

WS000039.JPG

  問題は『武士道』のフィラデルフィアで出たアメリカ版初版ですが、これのE-Text が残念ながら、ない。

  ということで、現時点では、推測の域を出るものではないのですけれど(UCB の東アジア図書館〔「May 20 東アジア図書館 East Asian Library」参照〕に全集はありそうだけれど、確認作業としてはそれだけでは不十分そうです)、暫定的に推理を書き留めておきます。――

  (1)  『武士道 Bushido』のもともとの副題は「日本の魂 The Soul of Japan」でしかない。

  (2) 矢内原忠雄は、Putnam's Sons 版を利用した(か、第二の副題についてパトナム社版の表記を使用した)。直前の1936年刊の研究社版を翻訳の底本にするということも考えられるけれど、新渡戸の弟子としてはもっと以前から親しんでいた本があったはずだし、研究社版がテクストとしてすぐれていたかどうか(わからんけれど)。

  (3)  奈良本辰也の記述は見るからに曖昧である。正確に書き写すと、以下のようです――

ちなみに本書の原題は "Bushido The Soul of Japan". ――Another of the History of the Intercourse between the U. S.  and Japan である。 (「解題」 235頁)

引用符に入っているのはあくまで "Bushido The Soul of Japan" までです。ダッシュのあとの、「合衆国と日本の交流史のもうひとつ」(?)、これは、奈良本が参照した研究書・書誌等の記述を誤ってついでに書き写したか、奈良本が参照した原著の表紙等に、広告的に "Another of the History of the Intercourse of between the U.S. and Japan" と銘打たれていたか(そういうのに近いものが パトナムの "An Exposition of Japanese Thought" だったのではなかったか、と推測されるのですけれど)、いずれにしても、新渡戸の原著にはない表記としか思われない。そして、それは、あるいは、1891年刊の新渡戸の前著への言及を含んだ宣伝的な文句と思われ。

  (4) WEB 上の、 "Another of the History of the Intercourse of between the U.S. and Japan" を副題として含める情報は、奈良本本の解題記述を直接・間接に引用・修正した誤りと思われる。

   つづくかも。

karakusa.jpg

本文中以外のe-textsをいくつか(最後のGutenberg は1908年の13版を使用していますが、それには第二の副題 "An Exposition of Japanese Thought" はなく、上のふたつはそれがあります)――

Bushido The Full Text <http://chiri.let.hokudai.ac.jp/~you/nitobe/data/bushido.htm> 〔chieri.let.hokudai さんのページ〕

Bushido, the Soul of Japan Index <http://www.sacred-texts.com/shi/bsd/index.htm> 〔Sacred Texts 内〕

The Project Gutenberg eBook of Bushido, by Inazo Nitobe, A.M., Ph.D.. <http://www.gutenberg.org/files/12096/12096-h/12096-h.htm> 〔プロジェクト・グーテンベルク〕


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あひるのドナちゃん

遅くなりましたが、コメントありがとうございました。
久々の更新でコメントを見て嬉しかったです!!
by あひるのドナちゃん (2009-09-16 16:40) 

morichan

あひるのドナちゃんさま
おひさしぶりです。いまは「カリフォルニア時間 ホイ」でホイホイしています。
by morichan (2009-09-16 18:23) 

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