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August 30 OED のまとめ――ラインダンスとフォークダンス (3)  OED, QED: Line Dances and Folk (3) [スザンナ周辺]

August 30, 2008 (Saturday)

あ、またフォークダンスへの言及がなかった、と思いつつもつづきです。

Tiller Girls line up.jpg

The Tiller Girls at the London Palladium 1950 <http://www.tillergirls.com/Tiller_Page_2.htm>

辞書の見出しに出てくる順に並びなおすと、


1961     line dance, n.

1990     line dance, v.

1928     line dancer, n.

1930     line dancing, n.

で、オックスフォード英語大辞典の初例の順序で2番目の "line dancing" の記述から前回はだいぶ脱線してしまいましたが、 これの用例の最後は2001年で、 C. Glazebrook, Madolescents 64: "They've just got back from the stupid line dancing down the Labour Club." です。 "madolescents" なんて聞いたこともない言葉で、たぶん小説だろうな、とあたりをつけて調べてみると(ほんとうは本のOED の巻末のBibliography を見れば、書誌情報がある程度は得られるはずなのですが)、モーリちゃんの父の好きなWorlCat ではChrissie Glazebrook がロンドンの William Heinemann から2001年に出した小説で、 The Madolescents. ジャンル的には "Juvenile delinquents--Fiction."  初版のあとにいくつか版があり、ISBN は 0434008869 9780434008865 0434009857 9780434009855.  などの情報を得ました。Amazon.com では初版は絶版で、2002年にArrow という出版社から出た400ページのペーパーバックが売られています。イギリスの不良のお話のようです。ということで確認したのですが、思ったとおりに、これはクラブでの(自分で踊る)ラインダンスのことです。

さて、line dance ということばは見出し語 line dancing (正確に言うと、OED の初版に入れられた語彙でも2版で入れられた語彙でもなくて "NEW EDITION draft entry" という区分で入っているのですが――そしてそれは4つとも同様なのですが)の定義内で使われているとはいえ、OED の用例でいうと戦後に名詞・動詞ともに出てきます。

まず名詞のほうは 名詞のline + 名詞のdance で、先行する(earlier) LINE DANCER と LINE DANCING を参照と書かれています。定義は "Any of various dances, esp. folk or country dances, in which multiple participants are arranged in one or more lines."  (複数の参加者が1ないし2以上ののラインに並ぶさまざまなダンス、特にフォークダンスまたはカントリーダンス)と書かれています。 用例ですが、・・・・・・よくわからない。わからないのでおおむねそのまま書いてしまいます、ここは。 1961 T. Petrides & E. Petrides, Folk Dance of Greeks13: "Thrace and Macedonia. . . Hassapiko. . .  (Line dance)."  1968 B. R. Buckley in T. P Coffin, Our Living Traditions xii. 139: "Round-dance, square-dance, line-dance figures were all used in the play-party.  1988 P. Manuel Popular Musics Non-Western World (1990) v. 158: "Lebanese traditions such as the dabkah line dance."  2001 Billboard 4 Aug. 81/2: "What has taken the [honky-tonk] name are the meat market, Village People, rap music, fern country, line-dance bars. Given my druthers, I'm much more at home in the bare-bones, often rank-smelling alternative rooms."    フォークダンスから、最後の用例のクラブ(バー)でのラインダンスまであるというのはわかりますが、歴史的な展開はぜんぜんわかりません。

そして動詞のほうは、名詞の line + 動詞の dance ですけど、 "after LINE DANCE (n.), LINE DANCER (n.), LINE DANCING (n.)" というような感じで語源というか語の派生が書かれています(そんなに並べられても困るけどw)。要するに名詞のline dance、さらにその前からあった名詞のline dancer そして名詞のline dancing にしたがうかたちであとから出てきたのが動詞のline dance だと。定義は "To participate in a line dance" (ラインダンスに参加する)。で、用例は新しいです。 1990 のフロリダの St. Petersburg Times から "Hilda Hubble effortlessly line danced, holding her arms just so and gliding around the linoleum floor.  1993年のカナダの雑誌から "It is high noon on Friday and the class is packed. . .  But today isn't normal: we are here to line dance." という用例。2000年10月8日のWashington Post (電子版) も同じく金曜の夜の描写で "On Friday night, hundreds played pool, country line-danced and then watched five people go up against the horned and burly beasts."

以上が歴史原則を誇るOED の記述です。モーリちゃんの父の印象では、あんまり信用できないな、というのと、記述が不完全というのとあります。そもそも初例がほんとに歴史を正しく反映しているのかという疑問がある。New York Times に集中しているというのもなんだかあやしげだ。まあ、新聞は世の中のことばの使用をたぶんにストレートに反映しているというのはわかるけれど、New York Times のArchive がウェブに存在するようになったことと無関係なのだろうか。あまりにテキストが多くなって、古英語とか中英語の時代のように、限られた数の正典キャノンが徹底的に学者によって調べられるというような時代ではとうの昔になくなっているというのはわかるけれど、それこそリチャード・ブリッジマンみたいにパソコンは使わずにこつこつとカードやメモで築き上げられてきたのが、初版の企画から全巻完結までに50年を要したOED という辞書の伝統だと思っておったし、引用については適切でコンパクトで意味が通るように心がけられたと思うのだが。それでも、この4つのことばの記述には相互参照cross reference があるのだし、専門的な知性が表にだけでなく裏側にも働いていると信じよう。そうすると、やっぱり、名詞と動詞(句)の "line dance" の使用と、 "line dancer" "line dancing" の使用とのあいだには、意味上の関係はありながら、時間的な懸隔(あれ、ケンカクって変換しないの? 死後か?)、へだたりがある、というのがOED の教えるところ、ということになります。

Rockettes.jpg

The Radio City Rockettes

しつこいですが、あらためてよっつを並べてみます。(しつこいですが、頭の年号はあくまでもOEDの初例の年です)。

1928     line dancer, n.  "A person who participates in line dancing." (ラインダンシングに参加する人)

1930     line dancing, n. "The action or practice of performing a line dance or line dances."  (ラインダンスを演じる行為ないし実践)

1961     line dance, n. "Any of various dances, esp. folk or country dances, in which multiple participants are arranged in one or more lines."  (複数の参加者が1ないし2以上ののラインに並ぶさまざまなダンス、特にフォークダンスまたはカントリーダンス)

1990     line dance, v. "To participate in a line dance" (ラインダンスに参加する)

そうすると、"line dance" ということばが使われる前に、ことばとしてはあたかもそれの派生語であるかに思われる(これはモーリちゃんの父の感覚ですけれど) "line dancer" と "line dancing" があった。その1920年代の「ラインダンス」は、戦後に「ラインダンス」という言葉が意味するさまざまな踊りにおける「ラインダンス」のなかの、限定されたもの、つまり(そこまでOED は記述していないけれど用例や時代を考えれば)「横一列に並んだ踊り手たちが音楽に合わせて一斉に、振付けられたステップのパタンに従って踊る」タイプのラインダンスだった(ここで「」に引いた説明は『リーダーズ英和辞典』の "line dancing [dance]" の記述です。リーダーズではこの見出し語がリーダーズプラスで加わって、派生語としてハイフンでつないだ一語の "line-dance" (自動詞)、それと"line dancer" を定義なしで並べています。dance がブラケット [ ] に入っているということは line dancing = line dance という意味です。逆にいえば、リーダーズの記述は最近のカントリー的な line dance をカヴァーしていません)。

ま、そんなところです。そんなところがモーリちゃんの父に付け加えられる情報です。

ラインダンスとLinedance(もしくはLine Dance)にRockettにKickline」 (裏帳簿 2007.3.6)のコメントのなかで、松さん(このかたは「All About OSK #01 [ロケット] 」  〔NewOSK*fan magazine〕のまとまった記述をしているかただとお見受けします)が、『大辞泉』の「ラインダンス」の記述、「《和line+dance》レビューで、大勢の踊り子が1列に並んで脚の動きなど>をそろえて踊るダンス。◆英語ではprecision dance」に言及されています。アメリカのロケッツにならってつくられた日劇ダンシングチーム(NDT) の「ラインダンス」は日劇支配人だった秦豊吉によってつくられた言葉とされており、和製英語とされている。これについて勝手ながら思うことを述べます。

1920年代、1930年代に、アメリカで "line dancer" や "line dancing" という言葉があったことは明らかです。そしてそれは Tiller Girls や Rockettes についてまさに使われる言葉としてありました。

和製英語の定義は『広辞苑』だとこうです――「日本で(英語の単語を組み合せて)作った英語らしく聞える語。「オフィス-レディー」「ナイター」の類。

さて、OED を信じれば、line dance という名詞、動詞は戦後になって出てきます。だから、1920年代には、line dancing と呼ばれたけれども、line dance とは呼ばれなかったことになります。

では「ラインダンス」は和製英語だったのでしょうか。英語のほうでline dance が名詞になる、だからのちには和製英語じゃなくてほんとの英語になるけれど、それに先んじて日本人によってつくられた言葉だったのでしょうか。

類推的にモーリちゃんの父に考えられるのは skating とか figure skating です。"skate" という英単語は名詞としてはふつうは「スケート」の意味にはなりません、靴をさすのであって、行為としてのスケートは skatingです。ただしskate は、動詞としては「スケートをする」という意味になります。"figure skate" も「フィギュアスケート靴」の意味であり、行為・競技としての「フィギュアスケート」(もっともリーダーズ英和辞典は「フィギュアスケーティング」と訳してますけれど)は "figure skating" です。ただし比較的新しいことばとして動詞の "figure-skate" があり、その動詞よりも前から "figure skater" という名詞があります。

じゃあ、スケーティングが正しいので、スケートは和製英語だ、ということになるのでしょうか? 

自分の感覚ではなりません。

Tillers 1.jpeg

<http://www.tillergirls.com/Tiller_Girls_Page.htm>

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コメント 2

マド@Berkeley

勉強になります。
5年ほど前に、NYのRadioCityロケッツのラインダンスを見た母上が「沢山の長い長い足たちが完璧な統率の下、自在に動くのを見て、ムカデを思い出した…ことを、記事を見て思い出しました」との事です。いやー、つい見入ってしまいますね…。
by マド@Berkeley (2008-08-31 09:33) 

morichan

あ、どうもありがとうございます。
失礼しました。
ニューヨークにもいらっしゃったのですね。それはクリスマスですか。興味しんしん。
by morichan (2008-09-13 02:34) 

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