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January 10-11 コトバの問題のつづきでアメリカの辞書・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇の3)――擬似科学をめぐって(12)  On Pseudosciences (12) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]

January 10, 2009 (Saturday)
January 11, 2009 (Sunday)

  「January 8-9 横隔膜と頭と心についての覚え書(コトバの問題のつづき)・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇の2)――擬似科学をめぐって(11)  On Pseudosciences (11)」のつづきになります。

   アメリカの標準的な辞典である(メリアム)ウェブスターの辞典は "phrenology" をどのように記述してきたのでしょうか。

  日本語のウィキペディアの「骨相学」は英語と同じく19世紀末のウェブスターの辞典の挿絵つき定義を掲載しています。

300px-1895-Dictionary-Phrenolog.png
(クリックで拡大ページへ)

  日本語のほうのキャプションを引けば、「1895年のウェブスター現代英英辞典に掲載された骨相学によるの地図。ガルによれば、脳は、色、 音、言語、名誉、友情、芸術、哲学、盗み、殺人、謙虚、高慢、社交などといった精神活動に対応した27 個の〈器官〉の集まりであるとされた。」 英語のほうは、ちょっと違う位置に同じ図版があるのですが、キャプションは "A definition of phrenology with chart from Webster's Academic Dictionary, circa 1895" (「ウェブスター・アカデミック辞典(1895年ごろ)から、チャートを付したフレノロジーの定義」です。英語のほうの"File" 説明ページ <http://en.wikipedia.org/wiki/File:1895-Dictionary-Phrenolog.png> を見ると、しかし、タイトルとはズレた、"This is an illustration and defenition of 'phrenology' from Webster’s Dictionary circa 1900." という文が付いていますw。1828年のノア・ウェブスターの初版の辞典以来、辞書戦争をくぐりぬけて、メリアム・ウェブスターが本家ウェブスターを名乗って現在に至るわけですが、本家のなかでも各種辞典が――つまり、有名な2版、3版の国際版のほかにも――いろいろ出されたのはあたりまえといえばあたりまえです。ちょっと検索してみて、たいへん感心したのは、愛知大学のHayakawaさんの「英学とウェブスター辞書」というページ <http://taweb.aichi-u.ac.jp/hayakawa/isamu03.html>。有名な 「非縮約 unabridged」、縮約版、高校用とか19世紀からあって、1895年に "A Dictionary of the English Language" の本題は他と同じで、確かに "Academic Dictionary" と称するものが出ています(もっとも、この年だけの出版と考える方が不自然ですけれど)。

  で、本体にあたらないと、ほんとは何年のものかはわからないのですが、ともかく、日本語の「現代英英辞典に掲載された骨相学による脳の地図」というキャプションにもかかわらず、チャートだけでなく定義が冒頭に入っています。

1. Science of the special functions of the several parts of the brain, or of the supposed connection between the various faculties of the mind and organs in the brain.  2. Physiological hypothesis that mental faculties, and traits of character, are shown on the surface of the head or skull; craniology.  (1.脳のいくつかの部位の特別の機能について、あるいは精神のさまざまな機能と脳内の器官とのあいだに想定される結びつきについての科学  2. 精神の機能、また人格の特徴が、頭の表面ないし頭蓋に示されるという生理学的仮説; クラニオロジー(頭蓋学))

  WEB上で参照可能なウェブスターの標準辞典のサイトとして、ARTFL Project の、1828年の初版と1913年国際版を合体させた "Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913)" <http://machaut.uchicago.edu/websters> があります。それで "phrenolgy" を引くと、両者の定義がつぎのようにでてきます<http://machaut.uchicago.edu/?action=search&word=phrenology&resource=Webster%27s&quicksearch=on>実際の表示の順序をひっくりかえして、まず1828年版(つまり「ウェブスター初版」)――

PHRENOL''OGY, n. [Gr. the mind, and discourse.] The science of the human mind and its various properties. (人間精神とそのさまざまな特性についての科学)

Phrenology is now applied to the science of the mind as connected with the supposed organs of thought and passion in the brain, broached by Gall. (フレノロジー(骨相学)の語は、現在、ガルによって提起された、脳内の思考や情念の器官と想定されるものと結びついた精神の科学をいうのに用いられている)

  1913年版――

Phre*nol"o*gy (?), n. [Gr. , , the mind + -logy: cf. F. phrénologie.]

1. The science of the special functions of the several parts of the brain, or of the supposed connection between the various faculties of the mind and particular organs in the brain.

2. In popular usage, the physiological hypothesis of Gall, that the mental faculties, and traits of character, are shown on the surface of the head or skull; craniology. <-- considered pseudo-science by all reputable medical personnel, but still believed by --> &hand; Gall marked out on his model of the head the places of twenty-six organs, as round inclosures with vacant interspaces. Spurzheim and Combe divided the whole scalp into oblong and conterminous patches. Encyc. Brit. <-- Illustr. of a chart of phrenology, showing the areas of the skull as "mapped" by Gall. --> 一般的な用法として、精神の機能、また人格の特徴が、頭の表面ないし頭蓋に示されるという、ガルの生理学的仮説)

  色を変えた箇所以外は、1895年だか1900年だかの辞典と同じです。ただし2番の定義のあとに説明的な記述があり、そこのところ句読法とかよくわからんのですが(☞とかあるのかしら)、「――すべての信頼できる医療関係者から擬似科学とみなされている――」 とあり、さらにブリタニカ百科事典から引用して、「ガルは頭の模型に26の器官を、間隙のある丸い囲いで示した。シュプルツハイムとクームは頭蓋全体を隣接する楕円形の区画に分割した。ブリタニカ百科」 そして最後ギュメ <> に入っているのは、WEB的な記述なのですけれど、ここにガルによって「マップ」された頭蓋の図版があった(本来ある)という記述です。

  安易な推測で結論めいたことを書く気はなく、データとして(?) メモっている(?) のですが、とりあえず19世紀末から20世紀はじめにかけてのアメリカのウェブスター辞典の記述については、ガルの「骨相学」が2番の意味にになっています・・・・・・1913年の記述はガルの名を出して明確にする一方、"in popular use" という限定をつけています。つまり1番のほうは"in popular use" ではない。ということは、専門的なコトバの意味として掲げているのだと考えられます。すなわち、脳内の特定の部位が特定の精神活動に結びついているという考えと、それが頭蓋の表面にあらわれるという考えは、いちおう別、ということです。

  それから、1913年版の記述ではより明確に、通俗的なコトバの用法と専門的な(当時はまだコトバ自体は否定されていなかったと考えられるわけですが)用語としての意味を分けているように見えます。

  メモを続けます。"craniognomy" という語もウェブスターの初版からあがっています――<http://machaut.uchicago.edu/?resource=Webster%27s&word=craniognomy&use1913=on&use1828=on> ――

CRANIOGNOMY, n. [Gr., the skull, and knowledge; index; L. , the skull.] The doctrine or science of determining the properties or characteristics of the mind by the conformation of the skull.

   そして1913年版――

n. [Cranium + Gr. , . to know.] The science of the form and characteristics of the skull. 

   それから、"craniology" ――

CRANIOLOGY, n. [Gr., the skull, and discourse.] A discourse or treatise on the cranium or skull; or the science which investigates the structure and uses of the skulls in various animals, particularly in relation to their specific character and intellectual powers. 〔1828 Webster〕

n. [Cranium + -logy.] The department of science (as of ethnology or archæology) which deals with the shape, size, proportions, indications, etc., of skulls; the study of skulls.   〔1913 Webster〕

   頭蓋学というか、少なくともガルにもともとつながっていて、ときにphrenology と同義語として19世紀前半には使われていたクラニオロジーのほうは、1913年の記述を見ると、人類学や考古学のほうへシフトしてしまっているように見えます。(「January 8 コトバの問題とコトバだけじゃない問題・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇)――擬似科学をめぐって(10)  On Pseudosciences (10)」参照)

  それにしても、ウィキペディアの引いている19世紀末のウェブスターのチャートは35番まであって、おわりのところに "Some raise the number of the organs to forty-three" (器官の数を43まで上げる者たちもいる)とかか書かれていますけれど、このチャートは1913年版の、「ガルによってマップされた」とするチャートではどうなっていたのでしょうか。気になる。なお、英語版のウィキペディアの "Phrenology" は、ガルの27(26ではないのですが、思うに1番の再生本能とかいうのの器官は小脳にあるので、別格なのではないでしょうか。説明してくれないとわかんないですよね。プンプン)のチャートをリストアップしています。<http://en.wikipedia.org/wiki/Phrenology>

  さらにつづく。


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