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January 13 [図版] 1840年代のメスメリズムの宣伝チラシ4種――擬似科学をめぐって(14)  On Pseudosciences (14) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]

January 13, 2009 (Tuesday)

   朝からスキャンと修正に没頭して疲れました。

  前回、アメリカのメスメリズムの話へ移行すると書きましたが、メスメリズムについては既に先走って「January 3-4 ホメオパシーとスウェデンボルグ主義 (上)――擬似科学をめぐって(7)  On Pseudosciences (7)」で前史に触れました。こんなふうなことを書いていました。――

・・・・・・メスメリズムについていえば、フランツ・アントン・メスマーは、1795年にパリの科学アカデミー(メスマーはこれか医学アカデミーか、どちらかに入りたいと願うのですが拒絶されています)の調査で、そんな磁気流体というような物質は存在しないと烙印をおされ、その後のスキャンダルもあってパリ追放となっているわけですけれど(つまり前世紀に一度否定されているわけですけれど)、1820年代に弟子のピュイセギュール(1751-1825)が新たな術の装いで登場し、いっぽうでトランス状態に落ちた被験者の発揮する透視能力や予知能力が話題となると同時に、外科手術における利用(1828年のマダム・プランタンの乳がん除去手術)が成功をおさめて、こんどは医学アカデミーの信用を得ます。アカデミーの委員会は、調査報告を1831年にまとめ、催眠術による「無感覚状態」の効果から「トランス状態」において術師に従うこととか、目を閉じたまま読む能力とかを追認します。それで、再びドーバー越えてイギリスにわたり、さらに大西洋を越えてアメリカに伝わったメスメリズムないし動物磁気説(animate things 生体(動物体)に特異の磁気があり、それは宇宙に遍在する磁気と交流しているけど、その流れを統御することで身体的・精神的状態は統御できるというふうにいったらいいかしら――まちがっていたら訂正しま~す)は、はなから「擬似科学」であったわけではなかったのでした。

  で、ほんとうは1830年代にアニマル・マグネティズムがイギリスに来たときの文化的コンテクストというか状況を考えておく必要があるのですが、それは先に送ることにして、最近の記事でしつこく語ったフレノロジー(骨相学)が、ウィキペディアの記述によれば1843年に「擬似科学」と呼ばれた、ということをチョコっと念頭において、以下の5枚の公開講義ないし実験(ないし見世物)のチラシを見ていただきたいと思います。

  I.  1844年3月のロンドンのクロスビー・ホールにおけるヘンリー・ブルックスの講義のチラシ

mesmerism02(1844).jpg
(クリックで長辺1024ピクセルに拡大、以下同じ)

  H. Brookes による "Two Lectures on MESMERISM" が行なわれると書かれていますが、続けて、"IIILUSRATED BY EXPERIMENTS, / Showing the Sleep, Sleep-waking, Catalepsy, Phreno-Mesmerism, &c." つまり、「睡眠や睡眠覚醒やカタレプシーやフレノ・メスメリズムなどを示す実験によって例証する」と説明があります。カタレプシー (catalepsy 英語の読みは「キャ」ですけど)は強硬症と訳されたりしますが、見た目が死んだように硬直してしまう症状で、ポーとかの「早すぎた埋葬 premature burial」というモティーフの「合理的」なタネのひとつです。フレノ・メスメリズムのフレノはフレノロジーのphreno で、メスメリズムと骨相学は1840年代には合体して、一緒に論及ないし展開されることが多くなっています(これはアメリカでもそうです)。まんなかには「シラバス」が載っていて、英語を書き写すだけしておきますと、"LECTURE 1.  INTRODUCTION―Mesmerism as a Science―Definition―Effects necessarily variable―Sleep not essential―Classification of Phenomena―First stage, or half sleep―Second stage, or perfect coma―Consciousness―Memory―Sleep-waking, or double consciousness 〔二重意識〕―Occasional transference of senses 〔「感覚の転位」という訳語で正しいかわかりませんが、通常の知覚部位が体の別の部位に移動することだと思います。「手」でモノを「見る」とか, or clairvoyance 〔透視〕―Analogous phenomena resulting from disease―Of the utility of Mesmerism in surgical operations, and as a curative agency in the treatment of epilepsy, hysteria, paralysis, calatapsy, rheumatism, tooth-ache, head-ache, deafness, palpitation, insanity, and in promoting natural sleep―Cases―Experiments./ LECTURE II.  Peculiar phenomena arising from the relation established between the two nervous systems, viz. Mesmeric relation―Attraction―Catalepsy―Community of sensation―Phreno-Mesmerism―Introvision, or perception of their own internal organism, and its probable changes―Perception of disease and its remedies in others―Of the influence of metallic substances, &c.―Experiments.

   8時に講義開始、聴講料金とります毎週1シリング(会員は1シリング6ペンスで、友人と一緒のダブルチケット購入可)。下の箇所には1831年のパリの医学アカデミーの調査委員会報告などからお墨付きが引かれています。

  II.  1844年ロンドンのマンチェスタースクエアにおけるW・J・ヴァーノンとアドルフ・キーストの講義のチラシ

mesmerism05(1844).jpg

  "Mr. W. J. VERNON, with ADOLPHE" と、ひとりはMr. をつけて、もうひとりはファーストネームのアドルフだけで、なんだか差別があるように見えますが、アドルフというのはニックネームみたいなもので、続けて "The celebrated Somnambule 〔「夢遊病者」, 夢中遊行者〕 de Paris, and other extraordinary cases" と紹介があるように、パリでメスメリズムの被験者としてメザマシイ能力を発揮したフランス人のようです。ふたりは何年もパートナーだったようで、当時の雑誌 The Phrenological Journal, and Magazine of Moral Science (Machlachlan, Stewart, 1841) の記事がWEB 上に見つかります――<http://books.google.co.jp/books?id=XW5GVIA2mGIC&pg=PA80&lpg=PA80&dq=%22Adolphe+Kiste%22&source=bl&ots=YpZcyxGj9X&sig=CkRQvrkKs8HtdDTYhdkcTv950r4&hl=ja&sa=X&oi=book_result&resnum=3&ct=result>。また、単独でMesmerism; or, Facts against fallacies, in a letter to the Rev. George Sandby. (London, H. Baillière, 1845) という本も書いているようです。

   最後のところに☞記号が付いていて、"Medical and Surgical Cases Treated Mesmerically/ Classes and Private Seances attended." と書かれています。前半は病気をメスメリズムで治すということですが、後半の、教室や個人のセアンスに出席します、というのは、招かれて出張講義します、の意味だと思われます。seance というのはもともとフランス語で、「集会」の意味もありますけれど、いわゆる「交霊会」の意味が主になった英語です。それは1848年にアメリカで起こるスピリチュアリズムがヨーロッパに広がった結果フランス語のseance の交霊会の意味が広まった、というふうに普通説明されるのですけれど、スピリチュアリズム以前にメスメリズムで使われているのです、実は。メスメリズムによってトランス状態におちた被験者が霊的な能力を発揮するだけでなく、霊の教えを語ったりするということが既にあって、そういう「霊媒」による霊の顕現なり啓示みたいな枠組みがスピリチュアリズムに先駆けて存在していた、というか、ほとんどそのままつながっていくなように見えます。これについてはいずれまた触れます。

  III.   1846年サマセットシャー、チャードのタウンホールにおけるウィリアム・デイヴィーの実験講義のチラシ

mesmerism01(1846).jpg

  講師のデイヴィーさんはチラシの絵では、骨相学的なチャートの描かれた二つのでかい頭部の間に立っています(遠近法ですかね)。三つの実験&講義は、「メスメリズム、フレノロジー、共感・鉱物磁気の有用性について」のもの("THREE EXPERIMENTAL LECTURES, ON THE UTILITY OF MESMERISM[,] PHRENOLOGY, SYMPATHY & MINERAL MAGNETISM") で、メスメリズム、フレノロジー、マグネティズムが並んでいます。夜7時開演。入場料とります。予約割引あり。席にランクがあります。「すべての人が時代の最大の驚異を目撃する機会を得られるように That all persons may have an opportunity of witnessing the greatest wonders of the age, the price of Admission will be reduced one-half, viz. RESERVED SEATS, 1s.; SECOND CLASS, 6d.; BACK SEATS, 3d.」といって料金のことが出てくる論理があんまりよくわかりませんw。

  そのあとを書き写しておきます――"THE LECTURER Will explain in his preparatory Lectures the locality, use, and abuse of the Organs, and the application of Mesmerism to human welfare, and exhibit a number of Busts, whose characters are before the Public.  He will then undertake to produce Mesmeric Sleep, Rigidity of the Limbs, Power of Attraction and Repulsion, and the Transmission of Sympathetic Feelings.  He will also demonstrate Phrenology, by exciting the Organs while in a state of Coma 〔昏睡状態において「器官」を刺激することによって、骨相学のデモンストレーションをやる、と言っています〕.  The sleepers will perform Vocal and Instrumental Music, Dancing, Talking, Nursing, Eating, Drinking, and other feelings of mirth, imitation and independence, even up to the highest manifestations of benevolence, veneration and sublimity, while in the Mesmeric Sleep 〔歌ったり楽器を弾いたり、踊ったり、喋ったり、飲食したりなどの行動、そして陽気 (mirth) とかマネッコ(imitation) とか善意 (benevolence) とか尊崇 (veneration) とか崇高 (sublimity) などの感情を、催眠状態の人が示す、というようなことが書かれているのですけれど、これは上にあるように「器官」、つまり頭の骨相学的な部位に触れることによって引き出されるわけです〕.
    Mr. D. will be accompanied by Miss Henly, daughter of the late Capt. Henly, from Newton-Abbot, born Deaf and Dumb; and he feels confident of bringing into action those faculties which have been dormant from her birth, by the aid of Phreno-Mesmerism.
     "FACTS ARE STUBBORN THINGS."

   最後の"Facts are stubborn things." ――「事実とは頑固なモノ」――はコトワザです。フィクションは改変可能だけれど、事実は変えようがない。事実を断固提示することによってメスメリズムと骨相学の真実を聴衆にわからせる、という含みです。その際、被験者のひとりには、生まれながらにして耳がきこえず口がきけなかったミス・ヘンリーという女性を、フレノ・メスメリズムの力を使ってその場で治す(「生まれたときから眠っていた能力を活動させる自信がある」)とデイヴィー氏は言っています。ちょっと説明しておきますと、1842年ごろからフレノ・メスメリズムの公開パフォーマンスが盛んになったようなのですが、催眠状態(トランス状態)の被験者の頭の「器官」の部位に触れることで、その能力が現われる、あるいはその能力に関連したしぐさや行動を被験者が起こす、というようなことが確かめられたのでした。そのへん、次の、ロンドンの倫理哲学と大脳生理学の先生の講義(金取るのですけど)のチラシに書かれたプログラムの背景にもうかがわれます。

  IV.  1847年オクスフォードシャー、バンベリーでのイーデン博士の講義のチラシ

mesmerism03(1847).jpg

  直截に「メスメリズム&フレノロジー MESMERISM & PHRENOLOGY」と銘打たれています。左下の骨相学のチャートのある頭と、左上のひとつだけ白い頭像以外は、右下のMa[→e]lancht[h]on メランヒトンとか右上のシェークスピアとか、何人かの偉人が入っているようですが、ちょっと印刷が悪くてよく読めません。ともあれ、これも見てすぐに骨相学とメスメリズムの結合を示しているのがわかるチラシです。

MESMERISM & PHRENOLOGY
REV. Dr. EDEN,
of 70, Regent Street, London, Professor of Moral Philosophy and Cerebral Physiology, will deliver
TWO LECTURES,
AT THE MECHANICS' INSTITUTE, BANBURY,
To Morrow, (Thursday) and Friday Evenings, April 15th and 16th, 1847,
Each Lecture to commence at 8 o'clock precisely, and conclude at half-past 9. 〔講義時間90分♪〕 

   LECTURE 1―Thursday, 15th.  Mesmerism―its Philosophy, &c.―Rev. Lay Roy Sunderland's theory―Dr. Braid's theory―Division of the phenomena.  First stage.  Second stage.  Third stage―Surgical operations performed during this stage.  Mesmerism a curative agent in cases of nervous diseases, viz., hysteria, epilepsy, rheumatism, &c.
   LECTURE 2―Friday, 16th.  An explanation of the Physiology of the Brain and other leading principles of Phrenology; its harmony with Sacred Scriptures 〔聖書のことです〕.  Phrenology useful in Education, and for success in certain Trades and Professions; Phrenology proved to be the best way of discovering how many talents and propensities each individual possesses.  How to Train and Educate Children at half the expense, and in half the usual time.

     Doctor E. has also given hundreds of Analyses and Sketches of the Inhabitants of the Principal Towns, comprising the most respectable of both Clergy and Laymen, which had the effect of convincing all parties of the truth and importance of Phrenology, some of whom previously thought it a mere delusion.  The Examinations have been of the greatest importance to many, enabling them to call into play, powers, with which they were not acquainted, and to check others which were a constant source of trouble to them 〔「問題の源泉となっていた力を抑制する」といっていますが、骨相学のチャートで「悪」の部分、すなわち、ガルは積極的に認めたけれど、シュプルツハイムは善性論から排除しようとした器官について、認めたうえで改善する、という姿勢です〕; they have likewise been equally important to parents, enabling them to quicken in their children those powers that are productive of knowledge and virtue, and to restrain those that have a tendency to evil 〔ここも同様に、「悪への傾向を示す力を抑止し」「知識と徳を生み出す力を促進する」という教育的効果です〕, and to make choice of those professions, trades, or other walks of life for which they are adapted. 
     Testimonial of the REV. D. WELCH, D. D. Professor of Church History, in the University of Edinburgh, ** I have found great benefit from the science, as a Minister of the Gospel, *** in dealing with my people in the ordinary duties of my calling; the practical benefit I have derived from Phrenology is inestimable.


    そのあと、よく読めませんが、ロンドンの自宅でみます、学校とかでもみます、とかいうことが書かれていて、最後に入場料が太字で書かれています。前列1シリング、後列6ペンス。さらに "After the Lecture Persons suffering from Toothache, &c. may be Mesmerized. (講義のあと歯痛等で苦しんでいる方に催眠療法を行ないます) 云々" と書かれています。 

  あ、あっさり画像を貼って終わるはずだったのが、もう夜です。ひえ~。

  カリフォルニア時間1月14日朝追記――英語のなかに、少し、日本語の訳と注釈を補いました。かえって読みにくくなったことを懼れます。


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コメント 3

うつ病

仕事の合間に見入ってしまいました。
いつも勉強になっています、ありがとうございます。

by うつ病 (2009-01-14 16:06) 

morichan

コメントありがとうございます。
わかりにくく読みにくい文章を読んでいただき、たいへんありがたいです。はげましを与えられました。
感謝とともに
by morichan (2009-01-15 00:36) 

abercrombie milano

って終わるはずだったのが、もう夜です。ひえ~。

  カリフォルニア時間1月14日朝追記―
by abercrombie milano (2011-11-14 22:48) 

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