January 16-19 メスメリズム(催眠術)とアメリカ (その2)――擬似科学をめぐって(17) On Pseudosciences (17) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]
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開き直って非科学の側から書くつもりになったものの、あれこれ読んでいると非科学のほうの思想史のほうがたいへんだ(たとえばとりあえず象徴というコトバに落として考えると、伝統的に「光」が啓示や英知の象徴だったのが、光から電気や磁気への転換が、科学と宗教のはざまでどのように起こっていたのかとか――これが実は意外と古い可能性があり――、あるいは、逆に19世紀にあらわになってくるオカルティズムが科学をどのように接取して神秘「学」 (occult sicence) の装いをまとうかとか――ブラヴァツキー夫人の、とくに東洋思想が前面に出てくる前の『ヴェールを脱いだイシス Isis Unveiled』なんかは科学ないし擬似科学への言及が多いわけです――)ということが今さらながらわかって、沈黙(沈思黙考?)に落ちていました。
気を取り直して、とりあえずはもともとのあっさりしたテクストを編むべく、糸を手繰りよせてみると、前の記事の終わりの方で、「この人は、動物磁気説の唯一最大の重要な発見はトランス、夢遊状態である、と信じた人でしたが、彼の講演(見世物)のまわったあとのアメリカ東部ニューイングランドに続々と霊能者が目覚めることになるのでした」とか書いちゃいました。アヤシーですが、そのラインで書いてみます。
客観的に考えれば、ポワイヤンに、あるいはメスメリズムに感化された人間は、いくつかのカテゴリーにわけられるでしょう。第一に思想的に感化された人間、第二に身体的に感化された人間(被験者)、第三に両方で感化された人間。第一は、まじめに感化される場合と(いくぶんかでも)商売・金儲け(の可能性)として感化される場合があるかもしれません。
ところで、Charles Poyen ってどういうカタカナ表記だろう、とググってみると原語でしか出てこず、それも大半は本の情報なのでした。で、例外的にPoyen が出てくるのはアメリカ文学関係の研究発表だったりして(= THE AMERICAN LITERATURE SOCIETY OF JAPAN =見覚えがあるようなw)。そして、そこではジェンダー問題が案の定出てくるのでした(被験者が女性で術師が男で支配関係みたいな)。日本で翻訳の出ている Maria Tatar の Spellbound というメスメリズムと文学の関係の研究書の記述を借りれば――
There appeared a new breed of mesmerists--itinerant magnetizers who made the rounds of carnivals and festivals with their trance maidens in order to cash in on the latest fad sweeping the Continent. The cruel exploitation of an innocent young girl by a shrewed mesmerist wizard was to become a pervasive theme in nineteenth-century European and American literature. (31) 〔新しいメスメリストの一団があらわれた――大陸を席捲するする最新の流行に乗って金を稼ごうと、トランスに陥る乙女をつれてカーニヴァルやフェスティヴァルをまわる旅回りの催眠術師たちである。魔術師のような狡賢いメスメリストが無垢な若い少女を無残に搾取するという主題は、19世紀のヨーロッパとアメリカの文学に広くみられるものだ。〕
イギリスにおける1840年代のメスメリズムのチラシを並べたときに、「科学」の教育というのが少なくとも看板としてはかかげられていた(見世物ではなくて「講義」だった)のを覚えておられるかたがおるかもしれませんが、そういう大衆的なeducation と entertainment の要素のバランスはときに大きく崩れるわけです。たぶん商売という要素が強くなったときに。(この教育と娯楽というのは、思えば、ルネサンス・フェアの歴史のなかにもある要素なのでした〔「September 30 ルネサンス・フェアをめぐって (中) Renaissance Fair (2)」参照〕。) そして、性的なもののアピールが陰に陽にショーにはついてまわるものなのかもしれません(これを言いだすとキリがないような気がするのですが)。
シャルル・ポワイヤンは1836年にアメリカにやってきてすぐにメスメリズムの実演を行ない、かつ、その年のうちに例の1831年のパリでの王立医学アカデミーの報告の英訳を出版します。
Report on the magnetical experiments made by the Commission of the Royal Academy of Medicine, of Paris, read in the meetings of June 21 and 28, 1831, by Mr. Husson, the reporter. Translated from the French, and Preceded with an Introduction, by Charles Poyen St. Sauveur.
by Husson, Mr.; Trans. Charles Poyen; Académie national de médecine (France)
Boston : D.K. Hitchcock, 1836. 〔AddAll の古本情報によると、lxxi, [1], [73]-172pp. ポワイヤンによる70ページくらいの序論がついている〕
Commun が1829年の7月と8月にニューヨークで講演を行なっていて、さらにそこで語ったところでは、1815年にアメリカ合衆国にやってきたときに、この "the new science" を実践する二人の知り合いと出会い、小さなサークルをつくったということのようです。この人はウェストポイントの士官学校のフランス人教師をしていたのですけれど、そうだそうだ。エドガー・ポーが士官学校にいたときにこの人に教わったのではないかとひそかにむかし考えたのを思い出しました(頭がボケてます)。
However, M. Poyen found in Miss Gleason, of Paw-
tucket, a young lady of respectable family, a remarkable
somnambulic subject, with whom he visited Boston and
Lowell, and gave a series of practical lectures, which
gained from among the most scientific and eminent per-
sons in this country many converts to the doctrine. He
likewise enabled many gentlemen, by his instructions, to
become professional dunamisers. (Leger, Animal Magnetism, p. 367)
Progress of Animal Magnetism in New England: Being a Collection of ... - Charles Poyen
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