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March 16 百科的 Encyclopaedic [擬似科学周辺]

March 16, 2009 (Monday)

    つい上の空状態に陥っていました(わけわかめ)。

   このあいだの「March 11 ヴェールをとられたイシス Isis Revelata――擬似科学をめぐって(30)  On Pseudosciences (30)」でつい引いてしまった「特別研究期間」にの一節「十八世紀中葉に出版されたフランスの『百科全書』の冒頭を飾る図像は、〈真理〉を剥き出しにしてしまおうとする、科学と哲学の視線がはらむ暴力性を明示する。しかしながら、はやくも十八世紀末にはそのような啓蒙主義の方法への批判が始まる。シラーは〈真理〉への欲望に内在する暴力性を主題化し、ゲーテは遮蔽物としてのヴェールを透明にすることで、〈真理〉への欲望を鎮静させ、カントは物自体の到達不可能性を理由に、遮蔽物の前での禁欲を説く」の百科全書の冒頭の図像ってどんなもんだろ、と無知なモーリちゃんの父は調べてみましたが、最初、つぎのものが扉として出てくるので、え゛、これが真理ムキダシかい、と疑問に思って数日煩悶したのでした。――

Encylopedie.jpg
via 「Wikipedia - 百科全書」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E7%A7%91%E5%85%A8%E6%9B%B8

  これは日本語のウィキペディアの「百科全書」の項目記事のなかに「百科全書の表紙」として載っているものですけれど、なんか老けて不細工な天使が・・・・・・天使は「無性 sexless」とされているけれど、ここまで成長すると男にしか見えんなあ、というような・・・・・・裸を布で一部覆われて浮遊している。この天使が知の探究にどうからむか知らんけれど、ミューズのように人間と対象とをとりもつ媒体なのだとしたら、なんで媒体が対象化されてしまうのだろう、と頭がこんがらがったのでした。この天使(だかなんだか知らんが)は、イシスのように知を体現しつつ知を探索する存在なのだろうかとかなんとか。

  しかーし。「冒頭を飾る図像」というのはこれではなかったのでした。もっとアカラサマなものでした。――

Encyclopedie_frontispice_full_473px.jpg
via <http://mediadix.u-paris10.fr/du/dusite2005/Picard/frontispice.html>

  中央上でhalo を出している天照大神みたいなのが、真理の女神さまなのでした。これの部分図はWikipedia の英語の "Encyclopédie"フランス語の "Encyclopédie ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers" には載っているのですが、日本語の「百科全書」には載っておらんのでした。ぷんぷん。

  英語版でいうと図2のキャプションから引きますと―― "It was drawn by Charles-Nicolas Cochin and engraved by Bonaventure-Louis Prévost. The work is laden with symbolism: The figure in the centre represents truth — surrounded by bright light (the central symbol of the enlightenment). Two other figures on the right, reason and philosophy, are tearing the veil from truth." (原画はシャルル=ニコラ・コシャン (1688-1754)、版画はボナヴェンチュラ=ルイ・プレヴォー (1747-1804?)。象徴の多い作品――中央の人物は真理をあらわしている。右側の理性と哲学は真理からヴェールを引き剥がそうとしている)

  理性といえば・・・・・・理性が裸を推し進めてよいのでしょうか。まあ、よくわかりませんが、ここで裸がどうとか考えるのは人間に戻しているわけで、神が人間の姿をしていること自体が人間の勝手なイメージ化ですから、人間のしがらみを神に押し付けてはいけないのでしょう。寓意とか象徴のレヴェルでの機能とのズレが生じるわけでしょうね。ドラクロワの有名な「民衆を導く自由の女神」(1830年、ルーヴル美術館所蔵)はおっぱいをモロにはだけておるわけですけれど、アレゴリカルには「乳房は母性すなわち祖国を、・・・・・・比喩(アレゴリー)で表現している」ということになります。だから、この女性と見える存在を女の人と見てはイカン。・・・・・・でも見えるように画家は書いているし、これがマリアンヌさんという女性をモデルにしていたという適当な可能性も含めて、アレゴリーにしてもシンボルにしてもややこしい(このへんはむかしメイポールについて考えていたときに考えていたこととちょっと重なります)。

  というようなそれかたでいろいろ考えさせられた次第です。

  で、本来的なところに戻って、ウィキペディアをいろいろ見ていて、思ったのですけれど、項目「百科全書」は「『百科全書』(ひゃっかぜんしょ、L'Encyclopédie、正式には L'Encyclopédie, ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers, par une société de gens de lettres)」と書いて、フランス語で示した長いタイトルを日本語に訳していませんが、1745年に出された原型については、「Encyclopédie ou dictionnaire universel des arts et des sciences (技術と科学に関する普遍的な百科全書)として告知文が出され」と書かれています。何が言いたいかというと、"sciences" は「科学」と訳されています。"arts" を「技術」と訳すのも目にとまりますけれど。

  いっぽう、「百科全書序論」という項目もあって、「百科全書序論(ひゃっかぜんしょじょろん)は1751年に初めて発行した『百科全書、または学問、芸術、工芸の合理的辞典』のためにダランベールによって書かれた序論である。この序論は二部からなっている。第一部は学門の系統を対象とし、第二部は学芸復興(ルネサンス)以来の人間精神の進歩の歴史を対象としている。」と書かれています。『百科全書、または学問、芸術、工芸の合理的辞典』のリンク先は先の「百科全書」そのものです。そうすると、この序論の項目では、sciences=学問、arts=芸術、métiers=工芸という対応が想定されているわけです。そして、「引用」のところには次のような訳文があります。――

願わくは、後世の人々が私たちの『辞典』を開いて、「これが当時の学問と芸術の状態であったのだな。」といってくれますように!願わくは、後世の人々が、私たちによって記録された発見に自分たちの発見をつけ加え、人間精神とその産物との歴史が最も遠く隔たった幾世紀までも代々続いてゆきますように!願わくは、「百科全書」というものが人間の知識を時の流れと変革とから保護する神殿となりますように!   

     科学が出てこないのです。つまりscience を「知」とか「学」とかいうものとして考えているわけでしょう。

   もとのタイトルの先のほう――フルタイトルは、"Encyclopédie, ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers, par une société de gens de lettres, mis en ordre par M. Diderot de l'Académie des Sciences et Belles-Lettres de Prusse, et quant à la partie mathématique, par M. d'Alembert de l'Académie royale des Sciences de Paris, de celle de Prusse et de la Société royale de Londres" です〔ついでながら "raisonné" は英語の辞典に載っているように "systemetic" (体系的)の意味〕――には、"de Académie Royale de Sciences" という言葉が出てきます。これはフランスの「王立科学アカデミー」なるものです。歴史的には 、ルイ14世によって16世紀に設立された科学アカデミーは、ウィキペディアの「科学アカデミー (フランス)」にあるように「最初にアカデミー会員として任命されたのは、天文学者解剖学者植物学者化学者幾何学者技師医師物理学者」でした。

  ということで、まあ科学史のほうでは常識とかになっているのか知りませんが、このへん、つまり18世紀の啓蒙主義の時代に、「科学」のありようについて、(書いている余裕がありませんが理神論から無神論へとたどるディドロを思えば宗教との関係も含めて)問題になったのだろうな、と思った次第です。

  そして、天使も神も信じないのなら、裸の天使とか女神とか出すなよ、とちょっと文句を言いたくなったのでした。

756px-Eug%C3%A8ne_Delacroix_-_La_libert%C3%A9_guidant_le_peuple.jpg
Eugène Delacroix, La Liberté guidant le peuple (1830) via Wikipedia <http://fr.wikipedia.org/wiki/La_Libert%C3%A9_guidant_le_peuple>

 


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morichan

eternity さん、ナイスありがとうございます。じきにeternity にむかってとんでいきます。
by morichan (2009-03-18 06:45) 

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