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September 15 アイラ・ガーシュウィンの「ス・ワンダフル」 (1)  " 'S Wonderful" by Ira Gershwin (1) [歌・詩]

September 15, 2008 (Monday)

   パリのアメリカ娘についての適当な記事「August 9 パリのアメリカ娘 An American Girl in Paris」において、「ス・ワンダフル」の歌唱について以下のような適当なことを書いたのが気になっていました。――

  Gene Kelly and Georges Guétary, " 'S Wonderful " in An American in Paris <http://www.metacafe.com/watch/yt-_I-_1hyUS8w/swonderful_american_in_paris/> (動画)

    「ス・ワンダフル」はジャズのほうが、それもフランク・シナトラとかじゃなく女性ボーカルのほうが好きかも。

    Diana Kroll, " 'S Wonderful " のjuneseventeen さんによるLesbian version (動画)が映像的に対照的・対蹠的かも。video clip は映画 Kissing Jessica Stein (2002: Jennifer Westfeldt and Heather Juergensen)(もしかしてこれでDiana Krollの曲が使われてましたか?)、Saving Face (2005: Michelle Krusiec and Lynn Chen)、Imagine Me & You (2006: Piper Perabo and Lena Headey)。

  その後、思うところあったので、男声女声と歌詞のジェンダー問題について、ちょっと書いてみます。

200px-Funny_Face_1957.jpgAmericanInParis_1951.jpg

  1951年の映画『巴里のアメリカ人』のなかで、アイラ・ガーシュウィン作詞、ジョージ・ガーシュウィン作曲の歌のひとつである " 'S Wonderful " は、野郎どもふたりによって歌われています。下の trailer (予告篇)でもその部分が挿入されていて、まずジーン・ケリーが " 'S wonderful " と歌い、それに対してジョルジュ・ゲタリが " 'S marvelous " と応じ、ジーン・ケリーが "She should care for me." と続けます(2:13から10秒くらい)。 It's wonderful (,it's marvelous,) (that) she should care for me.  という文意です。原詞では "she" ではなくて "you" なんですが、このシーンでは女に向かって男が歌うかたちになっていないので、かつホモでもないので、she に変わっているのでした(長いヴァージョンは上の動画のリンクをごらんください・・・・・細かいことをいうと "You can't blame" のところはYou のままですが、それは一般的なYou と考えたからでしょう)――


"An American in Paris Trailer (1951)" (3:46) posted by hollywoodclassics on March 31,2008

   その後に思いだしたことのひとつは、『巴里のアメリカ人』同様にガーシュウィンの曲をタイトルにも挿入曲にも大いに利用し、舞台もパリである1957年の映画 Funny Face (邦題『パリの恋人』)のなかで、 オードリ・ヘップバーンがフレッド・アステアとこの曲を歌っていたことでした。しかし探したのですが、そして探しているのですが、ほんの一部しか見つかりませんでした。やはり映画のtrailer です。――


"Funny Face - trailer (1956) AUDREY HEPBURN" (2:14) posted by "xxxSarahxLouisexxx" on December12, 2007

     こういう映像投稿の世界で、オリジナルの(オリジナルの映画会社じゃなくて、投稿者自ら作成の)trailerをつくるというようなヘンな流行がないのであれば、そして1956と書かれているのでこれは1957年2月の映画公開の前の前年から流れた予告篇ということなのでしょうから、ホンモノだと考えていいと思うのですが、ちょっと問題がありますね。オードリ・ヘップバーンとフレッド・アステアの歌にあわせてでかい文字が出ます、 " S'WONDERFUL! " (1:38)  " S'MARVELOUS! " (1:41)。正しくは " 'S Wonderful! " と " 'S Marvelous! " ですね。いや、大文字の問題ではなく、アポストロフィーの位置とスペースです。

   Ella Fitzgerald がLouis Armstrong と(Ella & Louisで) " 'S Wonderful " を遺してくれればよかったのですが、ないようなので、エラ・フィッツジェラルドがひとりで歌っているヴァージョンをお聞きください。(歌詞は、投稿者のdescriptionにあるものを少し直しました)――

Don't mind telling you, in my humble fash
That you thrill me through, with a tender pash,
When you said you care, 'magine my emoshe
I swore then and there, permanent devoshe,
You made all other men seem blah
Just you alone filled me with ahhhhhhhh....

'S wonderful, 's marvellous
You should care for me!
'S awful nice, 's paradise,
'S what I love to see.

You've made my life so glamorous,
You can't blame me for feeling amorous!
Oh 's wonderful, 's marvellous,
That you should care for me!

'S magnifique, 's what I seek
You should care for me.
'S elegant, 's what I want,
'S what I love to see.

My dear, it's four leaved clover time,
From now on my heart's working overtime,
'S exceptional, 's no bagatelle,
That you should care for...
That you should care for...
That you should care for me....


" 'S Wonderful Ella Fitzgerald " (3:31) posted by "acceptantlove" on June 16, 2008

    1行目冒頭に主語 "I" を補います。1行目と2行目の行末の韻を踏んでいる "fash" と "pash" はそれぞれ "fashion" と "passion"。3行目の " 'magine" は"imagine"。3行目行末の "emoshe" は "emotion"、4行目の "devosh" は"devotion"。第3連2行目の "amorous" はエロい、好色な、という意味ですけど、女の人に「わたしアマラスなの」と言われたらモーリちゃんの父はビビります。つーか、あんまり女性がみだら、いやみだりに使う言葉でないような気もしますが、それを女の人が使うところがいいのか(笑)。

   実はこの " 'S Wonderful " という曲は、1927年初演のFunny Faceというミュージカルの挿入歌でした。このミュージカルはガーシュウィン兄弟が音楽を担当しただけでなく、主演はあのフレッド・アステアでした(この歌はフレッド・アステアの姉のアデルと、別の男優のデュエット曲でしたが)。だから、1957年の映画の『ファニー・フェース』は、1951年の映画『巴里のアメリカ人』にたぶん触発されるかたちで、同様にガーシュウィンの音楽をタイトルも含めて大いにとりいれて、同様にパリを舞台にしてアメリカ人と芸術の問題をコメディーふうに扱ったものだった、たぶん。調べてみると、ミュージカルの『ファニー・フェース』と映画の『ファニー・フェース』(『パリの恋人』)はプロットは無関係のようです。と書きながら、映画のほう、よく思い出せないのでこちらも調べたのですが、オードリ・ヘップバーンが演じるJo Stockton という女性はニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジの本屋にいて、でもフランス哲学にかぶれているのでした(ウィキペディアの「パリの恋人」にはあらすじとして「小さな本屋で働くジョー(オードリー)は、共感主義かぶれ。ひょんな事からファッション雑誌のモデルを依頼される。撮影はパリ。パリには行きたいけれど、モデルなんて……。でも、パリに行けば共感主義の元祖フロストル教授にきっと会える!。雑誌の編集長マギー、カメラマンのディックと共にジョーはパリへ飛び立つ。(「共感主義」は仮想の思想であるが、この元祖フロストル教授は実在の実存主義者ジャン=ポール・サルトルがモデルという。)」と注記がありますけど、たしか "empathy" ということばを使っていたと思います・・・・・・主義としては "empathicalism"だが。それはいわゆる「感情移入」ですが、(美の)対象に全人格を没入させることで、たしかドイツのゴシック美術研究から(いやこれはウソかもしれない)、でもたしか美術の用語として最初にあって、それから心理学に入った言葉だったはずです。あーんと、ヴォリンガーの『抽象と感情移入』・・・・・・あ、これは広辞苑に載っているリップス(の『美学』)のあとですか(『現代美術用語辞典』)。

  ともかく、戦前の国籍離脱型 expatriate のパリのアメリカ人ではないのかもしれないけれど、やっぱりアメリカからパリへアメリカにはないものをめざしていく、パリのアメリカ娘の話ではあるのでしょうかね。ともかく『巴里のアメリカ人』同様にガーシュウィンの音楽をちりばめ、ミュージカルの『ファニー・フェース』からタイトルになった "Funny Face" と " 'S Wonderful" など4曲を、そして、他のガーシュウィンの曲を入れています。

   で、昔のほうの話ですけど、 1927年11月初演のあとあまり時をへずして――(このミュージカルのエピソードについては、ドキュメンタリー"George Gershwin Funny Face" (4:31) by "anniefofannie" がfunnyでためになります) ――"Whispering" Jack Smith によるレコーディングがなされていて、こちらは男性(男声)ひとりのヴァージョンになります。これの歌詞も、映像の投稿者によるものをあわせて引かせていただきます。――

Life has just begun,
Jack has found his Jill ;
Don't konw what you've done
But I'm all a-thrill.
How could words express
Your divine appeal ?
You can never guess
All the love I feel
From now on, Lady, I insist,
For me no other girls exist.

'S wonderful ! 'S marvelous !
That you should care for me !
'S awful nice ! 'S paradise !
'S what I love to see !

You've made my life so glamorous,
You can't blame me for feeling amorous,
'S wonderful ! 'S marvelous !
That you should care for me !

'S wonderful! 'S marvelous
You should care for me!
'S awful nice! 'S Paradise
'S what I love to see! 

My dear, it's four leaf clover time
From now on my heart's working overtime
Oh, 'S wonderful! 'S marvelous
That you should care for me!
 


" "'S Wonderful!" ('Whispering' Jack Smith, 1928) " (2:50) posted by "RReady555" on August 4, 2008

  ジャック・スミスは本名はシュミットで、ドイツ系だと思うのですが、r 音がナマリふうに強い発音ですね。この人は第一次大戦の際に毒ガスでやられて声を出せなくなったので "Whispering" というあだ名をつけられたバリトン歌手です。

   導入のいわゆる "verse"の部分がエラ・フィッツジェラルドと全然ちがっていますが、"chorus" 部、つまり主要部は基本的に同じように見え、ただし短めに終わっています(すいません。聞きなおしたら違っていました。歌詞を書き足しました。あと " 's " じゃなくて途中から "It's" と歌っているところもありますが、めんどくさいのでそのままにしました――カリフォルニア時間9月15日23時)。ちなみに前にあげ上にもあげたDiana Krall の4分以上ある「ス・ワンダフル」はverse なし、chorus のはじめの2連を3回繰り返すねちねちスタイルです。

  さて、だいぶ時間をいただいてしまいました。ジャズのスタンダード曲については、くわしい解説と訳詞・原詞の載った、「阿野音楽教室(Jazz&pops/classic)」というページがあって、以前たいへん感銘を受け、かつ私などわざわざ翻訳で出る幕はないと思ったのですが、この「ス・ワンダフル」についても興味深い解説が訳詞・原詞に添えられています。それをほぼまるごと引かせていただき、補足と理屈は次回ということにしたいと思います。

 '27年のミュージカル『Funny face』に挿入使用された曲である。その中ではアレン・カーンズ Allen Kearns とアーデル・アステアによって歌われた。その後映画では『Rhapsody in blue』(Waner 1945) に使われ、『Starlife』(Warner 1951) ではドリス・デイが、『An American on Paris』(MGM 1951) ではジョルジュ・ゲタリィ Georges Guetary とジーン・ケリーが歌い、このミュージカルの映画化『Funny face パリの恋人』(スタンリー・ドーネン監督 Paramount 1957) ではカメラマンに扮したフレッド・アステアとファッション・モデル役のオードリィ・ヘップバーンが、『Kiss me stupid』(United Artist 1964) ではディーン・マーティンが歌っている。この曲についてもアイラの著書から引用しよう。
この詩を書いた一番の理由は、it'sのitを落として残ったsを延ばして次の第一音節につなげる事によって、歯擦音の効果を強調したかったからだ。だから歌手が"It's wonderful","It's marvelous","It's paradise" などと正しい発音になおして歌うのを耳にすると、彼らの気持ちが判らなくて困惑させられたこともあった。

 ヴァース2では"fish","pash","emosh","devosh" と語尾を省略した。僕は前に『Lady, be good』で、コメディアンのウォルター・キャトレット Walter Catlett がお気に入りの単語から音節を落としてしまうのを聴いていたから、この方法で歌うのは新しくて面白いかなと思ったんだ・・・ところでとりすました'20年代について。『Funny face』の最初のトライアウトはフィラデルフィアでやったんだが、地元の一流の批評家の一人がシューバート劇場(中でリハーサルをやっていた)のロビーで僕に面会を求めてきて、ショウの内容に変更はないかと尋ねたんだ。つまり ['S wonderful] をなんとかしなかったのか、と言うんだよ。よく聞くと、彼はこの曲には猥褻語が含まれていると考えているらしかった。今のような四文字言葉自由化の時代だったら彼はいったいなんて言っただろうね?もちろん僕には判らないけど、その時彼は"feeling amorous" という表現はステージで歌われるよりもチョークでどこかにイタズラ書きされるような、そういう言葉だと感じたんだそうだ。
 この曲は、モダン以後のジャズではあまり演奏されていないが、スィングからバップ前期ぐらいまではインストゥルメンタルとして非常に演奏頻度が高く、ジャズ歌手が歌う素材としても代表的なスタンダード曲となった。なおこの曲のメロディとユダヤ音楽との関連については[研究-ジョージ・ガーシュインとイディッシュ音楽]参照。

ヘレン・メリル/ウイズ・クリフォード・ブラウン (EmArcy)
アニタ・オデイ/アニタ・シングス・ザ・モスト (Verve)
アート・テイタム/グループ・マスターピーセズVol.1 (Pablo)
ズート・シムズ/ズート・シムズ&ザ・ガーシュイン・ブラザーズ (Pablo)
ビル・チャーラップ/ス・ワンダフル (Venus)

Jackie & Roy
後藤芳子 / Because

SONG REAL BOOK  ALL OF THE JAZZ STANDARD 1  COPY  COPY 2

Verse 1 (male)

Life has just begun, Jack has found his Jill
Don't know what you've done, but I'm all athrill
How can words express your divine appeal?
You could never guess all the love I feel
From now on, lady, I insist
For me no other girl exist

Verse 2 (female)

Don't mind telling you in my humble fash
That you thrill me through with a tender pash
When you said you care, 'magine my emosh
I swore, that and there, permanent devosh
You made all other boys seem blah
Just you alone filled me with aah!

Chorus

'S wonderful! 'S marvelous
You should care for me!
'S awful nice! 'S Paradise
'S what I love to see!

You've made my life so glamorous
You can't blame me for feeling amorous
(My dear, it's four leaf clover time
From now on my heart's working overtime)

Oh, 'S wonderful! 'S marvelous
That you should care for me!

 ヴァース1(男性)

人生はたった今始まったんだ、ジャックがジルを見つけたのさ
君が何をしたのか知らないけど、僕は興奮でいっぱいさ
君の素晴らしい魅力は言葉では表現できそうもないな
僕の感じている熱い思いは君には判りっこないさ
ねえ、僕はこう言いたいんだ、いまこの瞬間から
もうほかの女性は僕には存在しないとね

 ヴァース2(女性)

あなたは優しい情熱で私を魅了してしまったって
素直に言わせてもらうわ
私を好きだってあなたが言った時の私の興奮ぶりを想像してみて
そのときそこで私は永久にあなたに尽くそうと決心したの
あなたはほかの男性たちを皆つまらないものにしちゃったわ
わたしにアァって溜め息をあげさせるのはあなただけ

 コーラス

スーばらしいな、なんてスーてきなんだろう!
きみが愛してくれるなんて
スーごくいいな、スーっとして天国にいったみたいさ
見てるだけでもスーきになっちゃうね

きみが僕の生活を輝かせちゃったんだぜ
僕が恋の気分に浮かれたからって責めないでおくれよ
(もう幸せいっぱいの時間ね!
私の心ははしゃぎすぎて、これからはオーバー・タイムよ)

スーばらしいな、なんてスーてきなんだろう!
きみが僕を愛してくれるなんて <http://www.anomusic.com/kashi/body_l.htm>*


   とりあえず verse で男性(男声)と女性(女声)に分かれていることが明示されています。chorusは・・・・・・この日本語訳はもっぱら男性(男声)のもの(括弧の中が女性?)に見えますが、どうなんでしょう。

  では、また。

FunnyFace_AudreyHepburn_Darkroom.JPG

Audre Hepburn's Funny Face

 

*つぎのページと同一人の作成か不明。<http://d0v0b.info/kyoku/s/swonder.html>

 

カリフォルニア時間9月27日午後8時追記――半分続きを書きました。

September 26 アイラ・ガーシュウィンの「ス・ワンダフル」 (1 1/3)  " 'S Wonderful" by Ira Gershwin (1 1/3) 

 

カリフォルニア時間10月17日朝――さらに続きを書きました。

September 27 アイラ・ガーシュウィンの「ス・ワンダフル」 (1 2/3)  " 'S Wonderful" by Ira Gershwin (1 2/3) [2008/10/03 00:14]
October 3, September 30 アイラ・ガーシュウィンの「ス・ワンダフル」 (2)  " 'S Wonderful" by Ira Gershwin (2) [2008/10/04 23:37]
October 4 ミュージカルの歌詞というもの(上)――アイラ・ガーシュウィンの「ス・ワンダフル」 (3)  On Musical Lyrics: " 'S Wonderful" by Ira Gershwin (3) [2008/10/05 23:37]
(2) と (3) を 見ていただけるとうれしいです。
 
 

 

 


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