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March 5-6 プレフォルストの女見霊者  メスメリズムからスピリチュアリズムへ(その3)――擬似科学をめぐって(26)  On Pseudosciences (26) [擬似科学周辺]

March 05, 2009 (Thursday)
March 06, 2009 (Friday)

   もちろん、憑依と呼ぼうがトランスと呼ぼうが神がかりと呼ぼうがトリップと呼ぼうが神的体験と呼ぼうが霊的体験と呼ぼうが、あの世↘この世の霊界通信的なコミュニケーションは、古くからあるわけですけれど、18世紀末に「科学」の装いで興ったメスメリズムによってトランス状態におちいった被験者が語る霊や霊界がらみの事例として有名なのは「プレフォルストの女見霊者」(英語だと "the Seeress of Prevorst" として知られる)と呼ばれる、ドイツの、バヴァリアの農婦の事例です。えーと、たしか名前はフリードリケ・ハウフェ。このひとのことを最初に読んだのはコリン・ウィルソンの本のなかでした。

  コリン・ウィルソンは同じことを繰り返し変奏して書くので、いろんな本で語っていると思いますけれど、てもとにある『ポルターガイスト』(1981) では第7章 "Ghost Hunters and Ghost Seers" の冒頭で詳しく紹介されています。――

If the history of ghost-hunting has to have a starting point, then the year 1829 is probably as good as any.  It saw the publication of a book called The Seeress of Prevorst, which became one of the bestsellers of the nineteenth century, and familiarised the general public with the idea that we may be surrounded by invisible spirits.  It was written by Dr Justinus A. C. Kerner, a rich and eccentric doctor who was also a well-known poet and song-writer.  In 1826, the forty-year-old Kerner was practising in Weinsberg, near Heilbronn, when he was consulted by the relatives of a woman called Friederike Hauffe, who was dying of a wasting disease.  She had lost all her teeth and looked like a walking skeleton.  (Colin Wilson, Poltergeist!: A Study of Destructive Haunting, p. 250)

   ゴーストハンティングの歴史に出発点があるとするなら、1829年が最もふさわしかろう、とウィルソンは書きます。この年にドイツの詩人でもあった医師ユスティヌス・A・C・ケルナーによる『プレフォルストの女見霊者』が出版され、これが19世紀のベストセラーの一冊となって、我々が不可視の霊に取り囲まれているという観念を一般に広めたからだと。

  1826年、ケルナーが46歳のときに、親戚に連れられてきたのが、フリードリケ・ハウフェという、歯が抜けおち、骸骨のようになった女性でした。以下、直接引用しないで要約します。子供のころからトランスに落ちて、ヴィジョンを見、見えない霊と会話をし、また未来も精確に予言していた。19歳のときに、親戚の男と結婚し、鬱状態におちいる。20歳のときに第一子が生まれ、ヒステリー症状を起こす。毎晩のようにトランスに落ちて、死者の霊を見る。・・・・・・ケルナーは最初、フリードリケのヴィジョンや霊について懐疑的で、ヒステリーが原因だと考えます。けれども、フリードリケが人体を透視して神経系の正しい記述をしたり、目を閉じておなかで文書を読んだりする能力があることがわかる。あるいは暗闇のなかで、たとえばコンパスで描いたような正確な円をすばやく書くことができる。

  通常の薬を処方しても効果がなく、「磁気トランス magnetic trance」に置いて霊の指示を聞いてみては、とフリードリケのほうからケルナーにいいます。はじめ乗り気ではなかったケルナーは、メスメリズムを試してみることにします。フリードリケは「マグネティズム」に反応して、容易にトランスに入る。ケルナーはこの状態でフリードリケが語ることに懐疑的だったのですが、ある日、考えを一変させる事件が起きます。フリードリケが、ヤブニラミの男につきまとわれている、と言う。彼女の記述から、ケルナーはそれが2,3年前に死んだ男だとわかる。フリードリケによると、横領の罪を別の人間が着せられていることで罪悪感に責められているらしい。その別の人間も既に亡くなっているのだが、その未亡人のために、ある文書によって汚名を晴らしてやりたいという。霊はフリードリケにその文書のある部屋を「見せ」る。フリードリケのくわしい記述から、その部屋で働いている人間がハイド判事という人だとケルナーにはわかる。そして、ケルナーが判事に連絡してみると、クリスマスの日にちょうどフリードリケが記述するような状態で仕事をしていたことがわかる。調べてみると、記述のとおりに部屋のチェストに文書が見つかり、そして記述のとおりに、文書の番号がまちがった並びになっていたこともわかる。

  てなことがあって、ケルナーはフリードリケの発言と超自然的な能力を信じるようになります。フリードリケが言うには、我々はつねに霊に囲まれている。これらの霊はいろんなやりかたで注意を引こうとする――ノックをしたり、モノを動かしたり、砂を投げたり。そして、フリードリケは霊のひとりにラップ音を出させたり、空中から小石や灰を降らせたり、椅子を宙に浮かばせたりさせます。

  コリンはポルターガイストがらみでフリードリケの事例に言及しているので、ケルナー宅に滞在中に起こしたポルターガイスト現象のこととか書かれています。が、のちの「霊訓 spirit teachings」的なものをフリードリケが語ったことも語っています。――

          Friederike also produced what would later be called 'spirit teachings', an amazingly complex system of philosophy in which man is described as consisting of body, soul and spirit, and of being surrounded by a nerve aura which carries on the vital processes.  She spoke about various cycles in human existence―life cycles (or circles) and sun circles, corresponding to various spiritual conditions.  She also described a remarkable universal language from ancient times, said to be 'the language of the inner life'.  (A mystical sect was founded to expound those doctrines after her death.) 〔フリードリケはまた、のちに「霊の教え(霊訓)」と呼ばれるものを提示した。それは驚くほど複雑な哲学体系で、人間が体、魂、霊で構成され、生命プロセスを行なう神経オーラに囲まれているものとして記述される。彼女は人間存在のさまざまなサイクルについて語った。さまざまの霊的状態に照応する生のサイクル(あるいはサークル)と太陽のサークル。彼女はまた、「内的生命の言語」といわれる古代からの普遍的言語について記述した。・・・・・・〕
          All these mediumistic activities made Friederike more and more feeble, and she died in 1829 at the age of twenty-eight.  Kerner's book The Seeress of Prevorst (the name of the Swabian village where she was born) created a sensation, and was equally successful when it was translated into English in 1845 by Catherine Crowe, whose own book, The Night Side of Nature, created an equal sensation four years later.  It is arguable that The Seeress of Prevorst and The Night Side of Nature were two of the most influenctial books of the nineteenth century. 〔こうした霊媒的な活動によってフリードリケはますます衰弱して、1829年に28歳で亡くなった。ケルナーの著書『プレフォルストの女見霊者』(プレフォルストはフリードリケが生まれたシュヴァーベンの村の名前)はセンセーションを引き起こし、1845年にキャサリン・クローによって英語に訳されたものも同様に成功をおさめた。その4年後のクロー自身の『自然の夜の側面』も同じくセンセーションを巻き起こした。『プレフォルストの女見霊者』と『自然の夜の側面』は、おそらく、19世紀の最も影響力をもった2冊の本だった。〕 (p. 254)

  引用の最初の段落の、body-soul-spirit の三分説が目にとまります。

  そのあと、19世紀後半のスピリチュアリズムに対する科学の反応というか反動というか反発によってこの本が「心霊研究 psychical research」に携わる人間からはまじめに受け取られなくなったこと、そして20世紀にはほとんど忘れられてしまったことが書かれています("as the scientific reaction against spiritualism increased, The Seeress of Prevorst  ceased to be taken seriously by those engaged in psychical research, and by the twentieth century it had been virtually forgotten")。心霊研究協会のフランク・ポドモアやE・J・ディングウォールなどのケルナーに対する批判が引かれたりして。で、コリンとしてはポルターガイストの事例と見ることですくい上げようとするわけです。

  モーリちゃんの父は、イギリスの女性作家だったキャサリン・クローの『自然の夜の側面』はむかしロンドンの骨董屋みたいな古本屋で50ドルくらいで買ったのを持っていますが、ケルナーの英訳は見たことがありません。アリソン・ウィンターの、イギリスにおけるメスメリズムの研究書では、フリードリケ・ハウフェについて、ほんの数行だけ出てきます。――

During this period a number of women invalids were said to have been placed in extraordinary states by mesmerism.  One well-known case was that of a Bavarian peasant woman, the so-called Seeress of Prevorst, chronicled by the novelist Catherine Crowe.  Her deathlike magnetic state blinded her to her immediate physical environment but put her in contact with what she called the "real world" invisible to everyone else (fig. 50). 〔この時期、女性の病人たちがメスメリズムによって異常な状態に置かれたといわれる。有名な事例は、作家のキャサリン・クローが記録した、いわゆるプレフォルストの女見霊者として知られるバヴァリアの百姓女である。死んだような催眠状態に入ると、周囲の物理的環境は目に入らなくなるが、他の誰にも見えない、彼女の言う「真の世界」との接触が行なわれた。〕[Alison Winter, Mesmerized: Powers and Mind in Victorian Britain (Chicago and London: U of Chicago P, 1998) 215]

  そして、この図50 (p. 216)というのが、言語から判断してして、クローの英訳本からのものなのでした――

SeeressOfPrevorst(Kerner-Crowe).jpg

  「サークル」でも「サイクル」でもなくて"sunsphre" と書かれています。3次元的に見られるべき図なのでしょうね。なにがなにやらわかりませんが。

 

 

  カリフォルニア時間3月7日午後3時40分追記  全然別の調べ物をしていたら、こりんの『ポルターガイスト』の邦訳が楽天オークションに出ているのに出くわしました。ちょうど日本時間の7日に出品されたのでした。訳が手元にあれば苦労はしなかったのに――
poltergeist_ColinWilson.jpg
via 楽天オークション<http://auction.item.rakuten.co.jp/10003018/a/10010729/>

 


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