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January 11-12 コトバの問題のつづきで辞書問題などの予告・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇の4)――擬似科学をめぐって(13)  On Pseudosciences (13) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]

January 11, 2009 (Sunday)
January 12, 2009 (Monday)

    〔「January 8 コトバの問題とコトバだけじゃない問題・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇)――擬似科学をめぐって(10)  On Pseudosciences (10)」のつづきの「January 8-9 横隔膜と頭と心についての覚え書(コトバの問題のつづき)・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇の2)――擬似科学をめぐって(11)  On Pseudosciences (11)」のつづきの「January 10-11 コトバの問題のつづきでアメリカの辞書・・・・・・でこちんと骨相学 (中篇の3)――擬似科学をめぐって(12)  On Pseudosciences (12)」のつづきです〕

    コトバの問題につまずいてしまいました。なぜphrenology のところでこれが起こったかというと、第一に、「骨相学」と日本語に訳される phrenology は本来のコトバの意味としては「精神学」と訳すのが適当なのに骨相学と呼ばれてきたという日本語とヨーロッパ語の双方にかかわる問題、第二に、ほとんど動物的な勘と呼ばれても平気ですけれど、心理/精神/魂問題が擬似科学・科学の歴史には関わっているという問題、(以上はなんとなくはすでに書いたことですが)第三に、ウィキペディアは "pseudo-science" という語の最初期の例として――それもオックスフォード英語大辞典のかかげる1844年の初例より1年早い例としてw――phrenology に関して「擬似科学」の呼称が使われた文を挙げている、ということがあります。

  現在、細かく辞書に引かれた文献や典拠や用例にあたっている余裕がなく、コトバ問題は先送りにして、骨相学の先に進んで全体(といっても19世紀前半のアメリカの状況ですけれど)をそれなりに捉えてから、また細かい話に戻ってこようと思います。

  ただ、この記事では、少しだけ見通しとメモを記しておきたいと思います。

    I.  フランソワ・マジャンディの用例

  まず、骨相学を擬似科学と呼んだ早い例というのは、英語のウィキペディアだと本文の最初の段落に出てきます。"An early recorded use was in 1843 by French physiologist François Magendie,[1] who is considered a pioneer in experimental physiology." (記録された早い例は、1843年にフランスの生理学者フランソワ・マジャンディによるものである。マジャンディは実験生理学の開拓者とみなされている。) 注を見ると、 "Magendie, F[.] (1843) An Elementary Treatise on Human Physiology. 5th Ed. Tr. John Revere. New York: Harper, p 150. Magendie refers to phrenology as "a pseudo-science of the present day" (note the hyphen)."(F・マジャンディ (1843) 『人体生理学初歩』 第5版 ジョン・リヴィア編・訳 ニューヨーク:ハーパー, 150 ページ。マジェンディは骨相学を「今日の擬似科学」と言及している) と情報があります。フランソワ・マジャンディ François Magendie, 1783 – 1855 (この人は動物で生体解剖とか進めて、非難も受けた人です)のフランス語の本のアメリカでの英訳ということですが、5版というのが気になります、自分は。5版からこの記述がはいったということなのでしょうか?  ということでつまずきが起こるのですが、WorldCat で調べてみたら、フランス語原書の情報も得られました――<http://www.worldcat.org/oclc/19757168/editions?editionsView=true&fq=&se=yr&sd=desc&referer=di&start_edition=1>。それから、InternetArchives でe-text を調べると、このWorldCat の検索の冒頭にもあがっている1855年版がWEB上にあることがわかりました――<http://www.archive.org/details/anelementarytre00magegoog>。Googleブック検索で当該ページ(150ページ)をリンクします――<http://books.google.com/books?id=8uIHAAAAIAAJ&pg=PA150&vq=of+the+present+day&as_brr=3&hl=ja&source=gbs_search_r&cad=1_1#PPA150,M1>。序文を見ると、ジョン・リヴィアというのはニューヨークのユニヴァーシティー・メディカル・カレッジの先生のようですが、1822年にマジェンディの The Summary of Physiology を訳し、それが好評で2版までは版を重ねたが絶版になってしまっていたが、新たに別の本を訳すことになったようです。原書は、 Précis élémentaire de physiologie 5版 (調べてみると1838年刊)です (Introduction, iii)。

  この1855年版のタイトルページは次のように書かれています。――

AN
ELEMENTARY TREATISE
ON
HUMAN PHYSIOLOGY,
ON THE BASIS OF THE
Précis élémentaire de physiologie.

PAR F. MAGENDIE,
MEMBER DE L'INSTITUTE DE FRANCE, &c., &c., &c.
FIFTH EDITION. 1838.

TRANSLATED, ENLARGED, AND ILLUSTRATED WITH DIAGRAMS AND CUTS.  ESPECIALLY DESIGNED FOR THE USE OF STUDENTS OF MEDICINE.

BY JOHN REVERE, M.D.,
PROFESSOR OF THE THEORY AND PRACTICE OF MEDICINE IN THE UNIVERSITY OF THE CITY OF NEW-YORK.

NEW YORK:
HARPER & BROTHERS, PUBLISHERS,
PEARL STREET, FRANKLIN SQUARE.
1855.

   そして、コピーライトページには "Entered, according to Act of Congress, in the year 1843, by HARPER & BROTHERS, In the Clerk's Office of the Southern District of New-York." と、1843年の版権が書かれていました、確かに。

  

     II.  OED の "pseudo-" の記述

  OED は、 pseudo というコトバが次第に自由に名詞や形容詞に付けられるようになり、特に19世紀に大量のpseudo- ナンタラいう言葉がいろいろな sciences (科学というより学問かもしれませんが)において使われた、というような説明とともに、おびただしい用例を示しています。ちょっとヒマなときに考えさせてください。

   III.  pseudo-science というコトバの始まりについて

  ということで、先送りです。

  ただ、前にdetective fiction というのは犯罪捜査を行なう警察組織が1830年代に生まれるまでは detective も存在しないから存在しないのだ、と言ったハワード・ヘイクラフトの狭い「探偵小説」=「推理小説」の定義についてチカッと触れましたが、pseudo-science というコトバがなくてもニセの科学があっただろうことは容易に考えられます(常識の問題)。ただ、想像されるのは、science そのものが18世紀末から19世紀にかけての実証主義的な流れのなかで自己規定を行なっていき、さらに科学内での新たな知見や発見や修正が積み重ねられて、科学と擬似科学を分けるマナザシが科学の正当派内部で強くなったのだろう、そのときに擬似科学という言葉が選別的に使われるようになったのではないかということです(まことに勝手な想像です)。科学自体の定義があいまいないし茫漠としていたのが、理科系的実証主義的還元主義的な態度が、機械文明の発展とともに「科学」の中心の座を占めるという展開があったのではなかろうか。

   ちなみにウィキペディアの英語の "Pseudoscience" の記事には19世紀後半の骨相学のチャートが挿絵として載っていて、キャプションでは、はっきりとpseudo-science の初例(少なくとも骨相学に関して)という感じで書かれています。――

phrenologicalchart.jpg

A typical 19th century phrenology chart. Phrenologists claimed to predict personality traits from reading "bumps" in the head. Phrenology was first called a pseudoscience in 1843 and continues to be widely considered pseudoscience. (典型的な19世紀の骨相学のチャート。骨相学者たちは頭の「コブ」を読むことで性格の特性を予言できると主張した。骨相学は最初1843年に擬似科学と呼ばれ、広く擬似科学と考えられ続けている。)

  直訳を付けましたが、1843年からずっと擬似科学と呼ばれてきたのか、あるいはあまねく擬似科学とみられ続けたのか、というのは疑問の余地があると思うのです。(1843年以前から呼ばれたという可能性も含めてですがw)。

  実は科学と医学の本を読んでいたのですが、頭が痛くなってしまったので、非科学の方向で筆を進めてみようと思っています。

  アメリカにおけるメスメリズムの展開についてなるたけシャキッと書く予定です。 

 

 


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