March 27 『磁気睡眠と心理療法のルーツ』 From Mesmer to Freud: Magnetic Sleep and the Roots of Psychological Healing_(1993) by Adam Crabtree [擬似科学周辺]
March 27, 2009 (Friday)
今日はモーリちゃんが小学校へ行く最後の日で、友だちを連れて2時前に戻ってくるのだけれど、部屋を片付けようとして本を片付けながら、やっぱりこれも書いておこう、とまだブログへの執着が断ち切れない自分がいます。
Adam Crabtree. From Mesmer to Freud: Magnetic Sleep and the Roots of Psychological Healing. New Haven: Yale University Press, 1993. x + 413pp.
1月の末頃届いた本だったと思われ。この本も図版がないです。禁欲的なほどです。装丁も、表紙のタイトルに見られる波打ったような文字の並びが章のタイトルに出てくるだけで、あとは366ページまでの本文のあとReferences (引用文献)が40ページもあり、びっしり文字で埋まっています。7ページのIndex 付き。
今日的な意味での心理療法の始まりが1784年のアントン・メスメルによる磁気睡眠の発見だというのは、Henri Ellenberger の大著 Discovery of the Unconscious (1970) が歴史的に指摘し、跡付けたものだと思うのですが、この本はメスメリズムの喚起したさまざまな問題――多重人格や霊界の啓示なども含め――を広範な資料読解をもとにして論考したたいへんな労作だと見受けられます。
えーと、いくつか例をあげると、前に言及したテーブル・ターニング問題(「March 4 メスメリズムからスピリチュアリズムへ(その2)――擬似科学をめぐって(25) On Pseudosciences (25)」参照)。これはふつうスピリチュアリズムがらみで捉えられていますが歴史的にはその前に動物磁気との関係があったというようなことは書きました。で、この本の第12章(pp. 236-65) は "Table Turning: Speculations about Unconscious Mental Activity"(テーブル・ターニング――無意識の精神活動についての思索」)で、簡単な歴史的な解説の後に、"Explanations" がルル説明されています。五つあったそうです――
Five explanations of the phenomena predominated: they were the productions of departed sprits 〔死者の霊〕; they were the workings of the devil〔悪魔〕; they were simply due to fraud〔詐欺・イカサマ〕; they arose from delusion, hallucination, and self-deception〔幻覚・妄想・自己暗示〕; or they were produced by the force of a "fluid" such as electricity, the "odyle" of Reichenbach, or animal-magnetic fluid. (p. 239)
5番目のさまざまな流体のなかに電気やオドや動物磁気が並べられているのですが。
同時代的にはない、他の説明として超能力みたいなのがのちには出てきて、5番目とあわさって、文学の方面で言うとSF的なるものの広がりの一端を担うのでしょうけれど、考えてみれば、ゴシック的な超自然のexplanation あるいは非-explanation とパラレルなところが、歴史的にはあるのかもね。フランケンシュタインあたりからはっきり出て、アメリカだとホーソーンやポーの短篇小説に見られるような科学ゴシック。
『プレフォルストの女見霊者』を書いたユスティヌス・ケルナーについても詳しい記述があります(198から203ページ)。この人のドイツ語の本のタイトルを見てそうかな、とは思っていたのですが、この本の前からメスメリズムにケルナーは関わっているのですね。ただ体を消耗するからやめたほうがよい、と判断したのを、患者の女性フリードリケ(=女見霊者)の方から懇願されて磁気トランスを使ったのでした。フリードリケその他の被験者を経験することによって、ケルナーは "magnetic spiritism" 「磁気的交霊術/磁気的スピリティスム〔? スピリティスムと日本語で普通呼ばれるのはスピリチュアリズムがフランスで発展してアラン・カルデックみたいな人が『霊の書』とか書き、それが南米に伝播してたぶんブードゥーとかとも習合する、そういうフランス語のspiritisme の写しですし、英語の読みとしてはスピリティズムですけどあんまり聞かないですね。もっともドイツ語の訳なんだろうけど〕」 の理論を展開することになったそうです。善霊と悪霊が不断に闘争している霊界に、トランス状態の人間は参与するのだけれど、善霊のほうの影響を受けると "agato-magnetic"、悪霊のほうだと "demonic-magnetic" というのだとか。
この悪霊の影響というのは昔風にいうと「憑依 possession」ですね。えーと、だから、ケルナーは歴史的な流れで言うと、憑依によって起こる病であるとか、悪魔祓いによる治療であるという、メスメルがキリスト教のガスナー神父を否定して「科学」のほうへ進んだ際に抹消ないし抑圧しようとしたらしいもの、それをあらためて出してきたということになります。
ここんところは、「December 30-31 擬似科学と科学についての覚え書――擬似科学をめぐって(4) On Pseudosciences (4) [短期集中 擬似科学 Pseudoscience]」でウィキペディアから引いた一節がかかわるところです。あらためて引いておきます。――
1775年、メスメルはミュンヘン科学アカデミーから、聖職者で信仰療法家のヨハン・ヨーゼフ・ガスナー(Johann Joseph Gassner, 1727年 - 1779年)の行った悪魔払いに関して、意見を求められた。ガスナーが信仰のせいだと言うのに対して、メスメルは、ガスナーの治療は彼が高度な動物磁気を持っていた結果であると答えた。アンリ・エランベルジュ(Henri Ellenberger)によると、メスメルの世俗的概念とガスナーの宗教的信念の対立は、ガスナーの活動の終了と力動精神医学(Dynamic psychiatry)の出現を運命づけたということである。
で、このクラブツリーという人の本は、一直線にフロイトの力動心理学へむかうのではなくて、さまざまな周縁的ないし(切り捨てられた側から見れば)中心的な問題をとりあげるわけです。Part 1: Magnetic Sleep. Part 2: Magnetic Medicine. Part 3: The Magnetic Psyche. Part 4: Psycholgical Healing. 最終の第4部は、人格乖離や第二の自我や二重意識や多重人格について19世紀末からのさまざまな議論が検討されます。たぶんフロイトにおいては、いろんな分裂やら乖離があってもそれは無意識の領域の問題であって、比喩的に言うと人間の意識という統一的なものがサーチライトをかざしてときおり無意識のさまざまな集合に光を当ててそれが我々の意識にのぼるので、分離したシステムは精神的なものであるにしても意識ではない、というところで落ち着くんじゃないかと思うのですが(比喩自体は359ページ)、多重人格とかってなかなか複雑ですよねえ。
と世間話のようにして閉じて引っ越し箱にしまいます。
カレンダータイム。。。
カーソールにくっ付いて、下まで移動しないみたいですね。。
by minoes (2009-03-29 00:21)
minoes さん、こんばんは。「カレンダータイム」っていうんですか。誰もつっこんでくれなかったのですが・・・・・・。ふつうどこまでもくっついて移動するものなのですか? 北欧の字の読めないサイトから勝手にもらってきたのですが。
by morichan (2009-03-29 00:39)